十六夜月と美しい青色
時計の針が、そろそろお昼を指そうという頃、遅出の柳田が出勤してきた。いつもなら、このタイミングで早出の結花がお昼の休憩に入っていた。
「朝の事件、聞いたよ。バックヤードはその話題で持ちきりだけど、いま社員食堂に行ったら落ち着いてご飯なんて食べれないんじゃない?随分、梅崎課長が紅梅屋クンをけん制したんだってね」
柳田が笑いを堪えて、聞いてくる。
「ええ、まあ…笑い事じゃないですよ」
結花も、本当に返答に困ってしまう。
「それこそ、紅梅屋クンの事情をみんな知らないから、梅崎課長と紅梅屋クンが結花を取り合ってるって盛り上がってるよ。まあ、ゆいちゃんを見る限り、あながち間違いじゃないのかな?」
したり顔で言われると、結花も思わず反論してしまう。
「違いますよ。あの一件以来、凌駕とは連絡も取ってないし、すべて弁護士に任せてありますから。その後、いろいろあって昨日梅崎さんとお見合いをしたんです。それで、前向きにお付き合いすることに。いつまでも、終わったことを引きずりたくもないですしね」
「ゆいちゃんて根っからの乙女なのに、ここっていうときは男らしいところがあるよね、いい意味で。きっと、そういう所に課長も惹かれたのかな。でも、お見合いからお付き合いするってことは、結婚とかそういう事も含めてだよね?」
「ええ。実際のところ、弁護士の話がどうなってるか私も詳しくは知らなくて。本当に婚約するとなったら、紅梅屋さんとのことも公にするでしょうから、少しは噂も落ち着くと思います」
「その辺りのことは、すべて社長が?」
「会社としても取引のある先ですから、私ではどうにもならないこともあって、父に任せています」
柳田がそれに頷くと、腕組みをして何か考え始めた。
「だから、新しい取引先を見つけるように言われたのか。紅梅屋と同じか、多少傾向の違う店でもいいから質のよい商品を提供してくれる店が良いって。そうだろうとは思ってたけど、合点がいったよ。社長も柊吾さんも、ゆいちゃんと紅梅屋クンをどうしても会わせたくなかったみたいだしね。今日の応援だって、渋々だったんだよ」
やれやれと言った顔で、おどけたように笑った。
「当たり前だろ」
二人の後ろから突然、聞きなれた低い声が聞こえてきた。カジュアルな装いにもかかわらず、背も高く体格の良い柊吾は、和人とは違った男らしい色香を放っていた。
「あれ柊吾君、今日は休みでしょ。何か急なことでも?」
驚いている割には、柳田の対応は飄々としていた。
「さっき、梅崎から電話があったんだよ。アイツ、紅梅屋相手にひと騒動起こしたって?自分が昼に社食に行ったら、随分噂されていたから結花が気まずい思いをするんじゃないかって、心配してランチに連れて出てくれって言ってきたんだよ。まったく、後先考えずに動くからだよ」
その様子をうかがいながら、結花は手荷物をもって出てきた。
「2階のカフェで、ランチしたいな。あと、欲しいものがあるから少し買い物に付き合ってくれる?」
「ああ、いいぞ。それに、昨日のこともどうなってるのか聞かせろよ」
「わかってるわよ」
柳田は、結花に甘い柊吾が「No」と結花に言ったことなんて見た事がないなと思って、二人のやり取りを見ていた。きっと、結花が何を言ったって”しょうがないな”で、受け止めてしまうのが柊吾だ。
「ゆいちゃん、柊吾に美味しモノ食べさせてもらいな。ゆっくりしておいで」
「行くぞ」
結花の手荷物を柊吾が手に取ると、先に店を出てそれを追いかけるように結花が歩いて行った。きっと結花の結婚式では、花嫁の父より兄の方が号泣だろうなぁと、笑いが止まらない柳田だった。
「朝の事件、聞いたよ。バックヤードはその話題で持ちきりだけど、いま社員食堂に行ったら落ち着いてご飯なんて食べれないんじゃない?随分、梅崎課長が紅梅屋クンをけん制したんだってね」
柳田が笑いを堪えて、聞いてくる。
「ええ、まあ…笑い事じゃないですよ」
結花も、本当に返答に困ってしまう。
「それこそ、紅梅屋クンの事情をみんな知らないから、梅崎課長と紅梅屋クンが結花を取り合ってるって盛り上がってるよ。まあ、ゆいちゃんを見る限り、あながち間違いじゃないのかな?」
したり顔で言われると、結花も思わず反論してしまう。
「違いますよ。あの一件以来、凌駕とは連絡も取ってないし、すべて弁護士に任せてありますから。その後、いろいろあって昨日梅崎さんとお見合いをしたんです。それで、前向きにお付き合いすることに。いつまでも、終わったことを引きずりたくもないですしね」
「ゆいちゃんて根っからの乙女なのに、ここっていうときは男らしいところがあるよね、いい意味で。きっと、そういう所に課長も惹かれたのかな。でも、お見合いからお付き合いするってことは、結婚とかそういう事も含めてだよね?」
「ええ。実際のところ、弁護士の話がどうなってるか私も詳しくは知らなくて。本当に婚約するとなったら、紅梅屋さんとのことも公にするでしょうから、少しは噂も落ち着くと思います」
「その辺りのことは、すべて社長が?」
「会社としても取引のある先ですから、私ではどうにもならないこともあって、父に任せています」
柳田がそれに頷くと、腕組みをして何か考え始めた。
「だから、新しい取引先を見つけるように言われたのか。紅梅屋と同じか、多少傾向の違う店でもいいから質のよい商品を提供してくれる店が良いって。そうだろうとは思ってたけど、合点がいったよ。社長も柊吾さんも、ゆいちゃんと紅梅屋クンをどうしても会わせたくなかったみたいだしね。今日の応援だって、渋々だったんだよ」
やれやれと言った顔で、おどけたように笑った。
「当たり前だろ」
二人の後ろから突然、聞きなれた低い声が聞こえてきた。カジュアルな装いにもかかわらず、背も高く体格の良い柊吾は、和人とは違った男らしい色香を放っていた。
「あれ柊吾君、今日は休みでしょ。何か急なことでも?」
驚いている割には、柳田の対応は飄々としていた。
「さっき、梅崎から電話があったんだよ。アイツ、紅梅屋相手にひと騒動起こしたって?自分が昼に社食に行ったら、随分噂されていたから結花が気まずい思いをするんじゃないかって、心配してランチに連れて出てくれって言ってきたんだよ。まったく、後先考えずに動くからだよ」
その様子をうかがいながら、結花は手荷物をもって出てきた。
「2階のカフェで、ランチしたいな。あと、欲しいものがあるから少し買い物に付き合ってくれる?」
「ああ、いいぞ。それに、昨日のこともどうなってるのか聞かせろよ」
「わかってるわよ」
柳田は、結花に甘い柊吾が「No」と結花に言ったことなんて見た事がないなと思って、二人のやり取りを見ていた。きっと、結花が何を言ったって”しょうがないな”で、受け止めてしまうのが柊吾だ。
「ゆいちゃん、柊吾に美味しモノ食べさせてもらいな。ゆっくりしておいで」
「行くぞ」
結花の手荷物を柊吾が手に取ると、先に店を出てそれを追いかけるように結花が歩いて行った。きっと結花の結婚式では、花嫁の父より兄の方が号泣だろうなぁと、笑いが止まらない柳田だった。