十六夜月と美しい青色
しかし、この田舎で、和菓子屋の跡取り息子が外で女の子を妊娠させて捨てたなんて事、誰が言わなくともあっという間に広がる。広まれば、お店の信用問題にも関わってくる。
それに、彼女自身が大手商社の社長令嬢だったことで、紅梅屋の商売にも少なからず影響が出ること、それに芽生えた命を捨てることはできないからこの縁談を白紙に戻し、彼女と結婚することで責任を取ると、時折、声を詰まらせながら話し静かに頭を下げたままだった。
「何?その身勝手な言い訳…?」
震える声を抑えながら、やっとの思いで結花が口を開いた。
「お店の事とか、そんな後付けのような言い訳しないでよ。本気でその彼女のことが好きで子どもができたって言われたほうが、まだマシだわ。飲んだ勢いとかどうなの?元カノでしょ?その子の実家のことも知ってての事でしょ。天秤にかけられた私が、見る目がなかっただけなのかしら」
怒りが、収まることを知らず感情と共にあふれて来るのを、結花は止めようとはしなかった。
また、父の怒りも治まることなく、凌駕を問いただす。
「凌駕君、君の言い分は分かった。だか、先ず君がしないといけないのは、結花にきちんと一人の男として話をし、そして赦しを乞うことではないのか?結花と凌駕君との間で話し合って出た答えならともかく、勝手に縁談を無かったことにするような話をされて、結花を蔑ろにされたようでとても不愉快だ。」
父の言葉に、凌駕は正座をしたまま、膝の上で握りしめた手に一層の力を込めた。その様子からは、計り知れない後悔と自責の念に苛まれていることは、誰の目からも明らかだった。
「結花も、凌駕君のことを話すときは、本当に幸せそうな様子で、それを見る度に、母さんと良いご縁だと感謝していたんだ。
それが、何ということだ···。
いくら、今までの付き合いがあるといえ、親として赦せる話ではない。それ相応の慰謝料は請求させていただく。悪いが、弁護士を立てさせていただくよ。今後は、全て弁護士を通して話をしてほしい。悪いが、お引き取り願えないか…。」
父の、行き場のない怒りを含んだ、地を這うように低く響く声が、呆然としていた結花の意識を目の前の凌駕に向かわせた。
一瞬の間に怒りと哀しみを宿した結花の視線は、眼前の凌駕を射貫くように見た途端、立ち上がっり、結花の右手が大きく振りかざされ、そのまま凌駕の左頬を叩いた。
とめどなく溢れる涙が、頬を濡らしこぼれ落ちた。真珠のような無垢な涙は、凌駕にプレゼントされたブローチの上を滑り降り、まるで儚い夢でも見ていたかのように消え落ちた。
「結花!頼む、話を聞いてくれ…。」
凌駕の叫びにも耳を傾けず、結花はそのまま客間を飛び出すと、愛車のエンジン音を響かせ家を後にした。
客間には、彼女が凌駕に合うときは必ず好んでつけていた甘い香水の残り香と、娘を思い凌駕たちを追い詰め、責め立てる母の声が残された。
それに、彼女自身が大手商社の社長令嬢だったことで、紅梅屋の商売にも少なからず影響が出ること、それに芽生えた命を捨てることはできないからこの縁談を白紙に戻し、彼女と結婚することで責任を取ると、時折、声を詰まらせながら話し静かに頭を下げたままだった。
「何?その身勝手な言い訳…?」
震える声を抑えながら、やっとの思いで結花が口を開いた。
「お店の事とか、そんな後付けのような言い訳しないでよ。本気でその彼女のことが好きで子どもができたって言われたほうが、まだマシだわ。飲んだ勢いとかどうなの?元カノでしょ?その子の実家のことも知ってての事でしょ。天秤にかけられた私が、見る目がなかっただけなのかしら」
怒りが、収まることを知らず感情と共にあふれて来るのを、結花は止めようとはしなかった。
また、父の怒りも治まることなく、凌駕を問いただす。
「凌駕君、君の言い分は分かった。だか、先ず君がしないといけないのは、結花にきちんと一人の男として話をし、そして赦しを乞うことではないのか?結花と凌駕君との間で話し合って出た答えならともかく、勝手に縁談を無かったことにするような話をされて、結花を蔑ろにされたようでとても不愉快だ。」
父の言葉に、凌駕は正座をしたまま、膝の上で握りしめた手に一層の力を込めた。その様子からは、計り知れない後悔と自責の念に苛まれていることは、誰の目からも明らかだった。
「結花も、凌駕君のことを話すときは、本当に幸せそうな様子で、それを見る度に、母さんと良いご縁だと感謝していたんだ。
それが、何ということだ···。
いくら、今までの付き合いがあるといえ、親として赦せる話ではない。それ相応の慰謝料は請求させていただく。悪いが、弁護士を立てさせていただくよ。今後は、全て弁護士を通して話をしてほしい。悪いが、お引き取り願えないか…。」
父の、行き場のない怒りを含んだ、地を這うように低く響く声が、呆然としていた結花の意識を目の前の凌駕に向かわせた。
一瞬の間に怒りと哀しみを宿した結花の視線は、眼前の凌駕を射貫くように見た途端、立ち上がっり、結花の右手が大きく振りかざされ、そのまま凌駕の左頬を叩いた。
とめどなく溢れる涙が、頬を濡らしこぼれ落ちた。真珠のような無垢な涙は、凌駕にプレゼントされたブローチの上を滑り降り、まるで儚い夢でも見ていたかのように消え落ちた。
「結花!頼む、話を聞いてくれ…。」
凌駕の叫びにも耳を傾けず、結花はそのまま客間を飛び出すと、愛車のエンジン音を響かせ家を後にした。
客間には、彼女が凌駕に合うときは必ず好んでつけていた甘い香水の残り香と、娘を思い凌駕たちを追い詰め、責め立てる母の声が残された。