十六夜月と美しい青色
車が和人のマンションの駐車場に車を止めると、結花の耳元でそっと囁いてみた。
「部屋まで歩けるか?」
「…うん」
少し、寝ぼけているような眼を開けて頷いた。
和人は後ろのシートにある二人分の荷物と、今日、食事をしながら渡そうと準備していたジュエリーショップの小さな紙袋を手に取ると、反対の手で結花の腰を抱きかかえるように支えて部屋へと急いだ。
和人は、安心しきって自分の肩に凭れ、両手で腕にしがみついている結花の様子を見るほど、藤沢社長の心配は考えすぎだと思うようになっていた。
玄関の鍵を開ける頃には、結花の目も覚めたのか足取りもかなり落ち着いていた。それでも、しがみついていた片方の手を和人は握りしめて離さなかった。
リビングのソファーに結花を座らせると、和人は冷蔵庫からミネラルウォーターを出してきた。
「少しは落ち着いたか?柊吾も藤沢社長も随分と心配していたから、柊吾にでもいいから明日には連絡してやれよ」
結花の隣に座ると、冷えたカクテルの缶の開けて喉を鳴らしながら飲んだ。
「飲むか?」
自分が飲んでいたカクテルの缶を、結花の前に置いて促した。
「いらない…。それより、折角のクリスマスのディナーをダメにしちゃったね。和人は、何も聞かないけど分かってるんでしょ?」
その言葉に、和人は思わず結花の眼を見つめて離せなくなってしまった。
「ああ…、柊吾からある程度はな」
言葉を濁しても、きっと結花は察してしまうだろうと思うと、和人は肯定するしかなかった。
「じゃあ聞くが、その涙はあの時みたいにアイツの所為なのか?それとも、俺との見合いをしたことを後悔しているからか?」
和人は、テーブルに置いたアルコールの缶を両手で握りしめるように持って、俯いたまま結花の涙の理由を聞いたけれど、気持ちの中では否定して、凌駕を追いかけはしないと言葉にして欲しくて堪らなかった。
「そんなわけないでしょ。もう凌駕とは終わってるんだから。和人が、一番よく知ってるじゃないの。だけどね、やっぱりショックだったの」
ミネラルウォーターを口にしながら、結花は話し始めた。
「そんな女に凌駕が騙されたことも、それで私と凌駕の人生が変わってしまったことも。父からその話を聞かされた時には、魔がさしたというか、凌駕を追いかけたら元に戻るかもとは思ったわ。だから凌駕に連絡を取ろうと思ってスマフォを見たの。そしたら、あの日から凌駕からの着信の通知をOFFにしていたから気づかなかったけど、昨日、ショートメッセージが届いてて…」
乾いた笑いが結花の口からこぼれて、和人は、静かに聞いているだけだった。
「”さようなら”って。ああ、凌駕はもうちゃんと違う道を歩こうとしてるんだって思ったら、自分が和人に凄く申し訳ないことをしようとしてたんだって事に気づいて、余計に泣けちゃって…。」
「そうか…」
少しだけ安堵したような和人の声が、結花の言葉と重なった。
「でも、和人のことが嫌いとかじゃないけど、本当にこれで良かったのかなってぐちゃぐちゃな気持ち…」
遠くを見るように、窓の外を見つめて呟いた。
「焦らなくていいから、俺の隣が結花の居場所だと信じられるように、結花の事を大切にするから」
和人の唇が結花の唇にそっと触れた。
「廊下の先がバスルームだから、湯船に湯を張るからゆっくり暖まっておいで。今夜は、疲れただろう?」
頷いて立ち上がる結花を、後ろから抱き締めた。うなじに顔を埋めて、強く抱き締めた和人のやりきれなさが、二人だけの間を漂っていた。
結花は、背を向けたままそっとその手をほどくと、振りかえることもなくバスルームへと向かった。
「部屋まで歩けるか?」
「…うん」
少し、寝ぼけているような眼を開けて頷いた。
和人は後ろのシートにある二人分の荷物と、今日、食事をしながら渡そうと準備していたジュエリーショップの小さな紙袋を手に取ると、反対の手で結花の腰を抱きかかえるように支えて部屋へと急いだ。
和人は、安心しきって自分の肩に凭れ、両手で腕にしがみついている結花の様子を見るほど、藤沢社長の心配は考えすぎだと思うようになっていた。
玄関の鍵を開ける頃には、結花の目も覚めたのか足取りもかなり落ち着いていた。それでも、しがみついていた片方の手を和人は握りしめて離さなかった。
リビングのソファーに結花を座らせると、和人は冷蔵庫からミネラルウォーターを出してきた。
「少しは落ち着いたか?柊吾も藤沢社長も随分と心配していたから、柊吾にでもいいから明日には連絡してやれよ」
結花の隣に座ると、冷えたカクテルの缶の開けて喉を鳴らしながら飲んだ。
「飲むか?」
自分が飲んでいたカクテルの缶を、結花の前に置いて促した。
「いらない…。それより、折角のクリスマスのディナーをダメにしちゃったね。和人は、何も聞かないけど分かってるんでしょ?」
その言葉に、和人は思わず結花の眼を見つめて離せなくなってしまった。
「ああ…、柊吾からある程度はな」
言葉を濁しても、きっと結花は察してしまうだろうと思うと、和人は肯定するしかなかった。
「じゃあ聞くが、その涙はあの時みたいにアイツの所為なのか?それとも、俺との見合いをしたことを後悔しているからか?」
和人は、テーブルに置いたアルコールの缶を両手で握りしめるように持って、俯いたまま結花の涙の理由を聞いたけれど、気持ちの中では否定して、凌駕を追いかけはしないと言葉にして欲しくて堪らなかった。
「そんなわけないでしょ。もう凌駕とは終わってるんだから。和人が、一番よく知ってるじゃないの。だけどね、やっぱりショックだったの」
ミネラルウォーターを口にしながら、結花は話し始めた。
「そんな女に凌駕が騙されたことも、それで私と凌駕の人生が変わってしまったことも。父からその話を聞かされた時には、魔がさしたというか、凌駕を追いかけたら元に戻るかもとは思ったわ。だから凌駕に連絡を取ろうと思ってスマフォを見たの。そしたら、あの日から凌駕からの着信の通知をOFFにしていたから気づかなかったけど、昨日、ショートメッセージが届いてて…」
乾いた笑いが結花の口からこぼれて、和人は、静かに聞いているだけだった。
「”さようなら”って。ああ、凌駕はもうちゃんと違う道を歩こうとしてるんだって思ったら、自分が和人に凄く申し訳ないことをしようとしてたんだって事に気づいて、余計に泣けちゃって…。」
「そうか…」
少しだけ安堵したような和人の声が、結花の言葉と重なった。
「でも、和人のことが嫌いとかじゃないけど、本当にこれで良かったのかなってぐちゃぐちゃな気持ち…」
遠くを見るように、窓の外を見つめて呟いた。
「焦らなくていいから、俺の隣が結花の居場所だと信じられるように、結花の事を大切にするから」
和人の唇が結花の唇にそっと触れた。
「廊下の先がバスルームだから、湯船に湯を張るからゆっくり暖まっておいで。今夜は、疲れただろう?」
頷いて立ち上がる結花を、後ろから抱き締めた。うなじに顔を埋めて、強く抱き締めた和人のやりきれなさが、二人だけの間を漂っていた。
結花は、背を向けたままそっとその手をほどくと、振りかえることもなくバスルームへと向かった。