コインの約束
◎ 和真との出会い
昨日の夜の寝不足のせいか、朝食を食べ過ぎたせいか、原因は分からないけど・・・気持ち悪い。
それでも学校へ行くために電車に乗っている。この電車の揺れが気持ち悪いのに拍車を掛けているのは確かだ。
ああ、吐きたい。もうダメかも。
私はもう限界が近かったので学校の最寄り駅より手前の駅で電車を降りた。
初めて降りる駅。トイレはどこ?
口にハンカチをあてて、案内板を探していると、電車に乗り込もうとしていた人にぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさ・・・・うっ」
吐くかも。
明らかに顔色の悪い私に気付いたその相手の人が
「あっ、えっ?大丈夫?」
と、声を掛けてくれた。
「ト、トイレはどこですか?もう、吐く・・・」
「マジで? トイレはこっち。来て!早く!」
そう言ってトイレまで連れてきてくれて。
女子トイレに駆け込んだ私は、外に声が漏れるかもしれないと思いつつも、思い切り吐いた。吐くとなんで涙も出るんだろ。
ああ、胃が痛い。
胃の中が空っぽになるまで吐いたら、気持ちの悪さはスッキリして。
「あぁ、学校は遅刻だな・・・。」
足取り重く女子トイレから出ると、そこには、さっきトイレに連れてきてくれた人が立っていて、声を掛けてくれた。
「大丈夫?」
私は初めてその人の顔を見る。
あ、同じ学校の制服の人だ。
「ありがとうございました。助かりました。・・・遅刻、しちゃいますよ?」
「ん。いいよ。はい、これどっちがいい?」
そう言って差し出してくれたのはお茶とお水。
「えっ?そんな、頂けません」
「吐いたときは水分摂らなきゃ、脱水症状になるでしょ。はい、選んで。どっちがいい?」
「じゃあ、お水を。ありがとうございます」
この人、すごく優しい。
同じ学校の人ってのは分かるけど、見たことのない人。
学年も分からない。
「電車が来るまで座ろっか」
「はい」
私たちは並んでベンチに座った。
「あの、遅刻確定ですね。ごめんなさい」
「だって、放っておけないでしょ」
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」
「んー、別に。俺、優しくなんてないよ」
「そんなことない。こうして一緒にいてくれてるし。飲み物だって買ってきてくれて」
「一緒にいたいと思っただけ。それに・・・。いや、何でもない」
この人、何か言いかけたけど、話をやめてしまった。
「あの、お名前と学年を教えてもらってもいいですか?」
「そっか。そうだよな。知らないよな、俺のこと」
え?有名人だった?生徒会長とか?知らないよな、って何?
「ごめんなさい、存じ上げません」
「俺はさ、お前のこと知ってるのに。なんかムカつく」
はい?優しいキャラから急変してない?
「俺は、結城和真(ユウキ カズマ) お前と同じ高2なんですけど」
へぇ。全然知らない・・・。同学年だったんだ。
「結城くん、しっかりしてるから先輩かと思った。同級生なんだね」
「お前も自己紹介してよ」
「でも、私のこと知ってるって言ってなかった?」
「いいんだよ、名前は?」
「柚木芽衣(ユヅキ メイ)です」
「本当に、柚木、芽衣なのか?」
「あの、嘘ついてどうします?私は柚木芽衣です」
「そうだよな。悪い。じゃ、クラスは?」
「2年3組です」
「付き合ってる人は?」
「ん?その情報って、必要?」
どさくさに紛れて、何を聞いてくるんだ、結城くんは!
「答えてよ」
「い、ない。です」
「ふっ、知ってるよ、そんなこと」
そう言ってイジワルそうに笑う結城くん。
「なっ!なによ。知ってるんなら、わざわざ聞かないでよ!」
「ははっ、それだけ元気になれば大丈夫だな」
結城くんは楽しそうに笑った。
「結城くんって、変な人」
でも、笑った顔がかっこいいかも。なんて思ってしまった。
「結城くん、じゃなくてさ。和真って呼べよ」
「うわ、強引。何気に俺様なの?」
「何だよ、俺様って」
「わかった。そのうち呼んであげるよ」
「うわ、俺より俺様だな、芽衣は」
「ん?芽衣?」
「え、芽衣だろ、名前」
「そ、そうだけど・・・。初対面で芽衣って」
そんな会話をしているところへ電車が到着した。
私たちはもう学生の乗っていないその電車に乗り込み、学校へと向かう。
学校に着くと、
「じゃ、俺のクラスこっちだから」
そう言って結城くんは2年5組のクラスへと入って行った。
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