コインの約束
◎ 修学旅行

あの日、和真に本気で怒られた私は、和真に全幅の信頼を寄せていて、それに応えられるような彼女になろうと努力していた。

和真の隣にいて恥ずかしくないような彼女。内面も外面も美しく。

頑張った成果が良かったのか悪かったのか、最近私は何人かに告白された。

もちろん、全員お断りしたけど。

そんな告白を和真が聞き逃すはずもなく。

男避けだって言っては、ずっと私にくっついてくる。

いつの日かの夏樹が由真にくっついていたように、幼い頃のまーくんが芽衣ちゃんから離れなかったように。

鬱陶しいような、それでもイヤではない。

和真がとても愛おしいと思う。



そして10月になり、明日から楽しみにしていた修学旅行。


和真とはクラスが違うから、移動の時も古都巡りもすべて別行動。

せっかくの京都旅行なのに、寂しいよ。

最終日のフリー行動の時だけ、和真と二人で回る約束をしているから、最終日が一番楽しみなの。

それでも私たち親友4人は同じグループで回れるから、それはそれで楽しみなんだよね。

最近は和真が私と湊の親友関係に文句を言わなくなったし、なにより和真のグループが全員男子だったから嬉しかった。

高柳さんと同じグループなんて言われたら、嫉妬でおかしくなってしまう。

ただね、由真と夏樹はカップルだから。必然的に私と湊がいつも一緒になって。

そこに関しては、和真ごめん!


そして、その湊。

朝からすごいハイテンションで。

彼女の凛ちゃんは一つ学年が下だからこの旅行にはいないのに。

なにがここまで湊をハイテンションにしているんだろう?

新幹線に乗った時、隣の席の湊にそのハイテンションはどこから来るのか、そっと聞いてみた。

けど、聞いて後悔した。

「芽衣、内緒だぞ。誰にも言うなよ。約束な」

「分かったよ、しつこいな。なにがあったのよ、そのハイテンション」

「俺さ、昨日さ、凛とさ・・・・うははははっ」

「何が言いたいの?湊?」

「ばっか、これ以上言わせんなよ。芽衣だって分かるだろ。付き合ってたらそうなるだろ」

「えっ?もしかして?昨日、シタの?」

「ばっ!ばか芽衣!そんなハッキリ言うなよな。俺、恥ずかしいだろ」

うわ!聞かなきゃよかった。こっちまで恥ずかしくなるわ。

自分では気づかなかったけど、私の顔が尋常じゃなく赤くなっていたみたいで、

「ん?芽衣、なに赤くなってんの?えっ?芽衣?芽衣ってもしかして・・・まだなの?」

「うるさい!私のことは放っといて」


「うわー、マジで?なんだよ、俺の方が先輩になっちまったのかよ。芽衣、困っていることがあったら何でも俺に聞けよ。色々教えてやるからな」

「もう、マジうざいわ、湊!」

そう言って湊の顔を手で押して遠ざけた。

そっかー、湊も大人になったのか。

でもさ、相手の凛ちゃんってまだ高1だよ?まだ中学を卒業して1年も経ってないんだよ?そういうことするの、早くない?

私が遅いの?ううん、そんなことない。と、思うけど。どうなの?


「芽衣も結城に早くシてもらえよ。いいぞー、チュウは。俺、凛のこと、もっと好きになったもんね」


ん?湊、ちょっと待て!


「うっわ!私の赤面を返せ、バカ湊!!」


そんなハイテンションの湊に付き合って新幹線では湊をバカにしながら楽しく過ごせた。湊とは精神年齢が近くて気が合うから、一緒にいるだけで楽しい。


あっという間に京都に到着し、今日はクラス別に古都巡り。

和真の5組とはかすりもしないスケジュール。一度も会えなかった。

夜は夜で食事も別の広間で。1組から3組が同じ広間。4組から6組が別の広間。

つまんなーーい!

食事も終わり、お風呂の時間。

私は今夜、由真に胸の傷のこと、小さい時にした病気のことを打ち明けようと思っていた。

「由真、お風呂一緒に行こう?」

「うん、行こっか。お風呂出たら恋バナしようね」

お風呂へ行く長い廊下で、歩きながら由真に傷のこと、病気のことを話した。

すると由真が私に抱き着いてきて

「ずっと大変だったんだね。芽衣、一人で頑張ってたんだね、偉かったね」

って涙ぐみながら言ってくれて。

もっと早く由真に打ち明ければよかったと、後悔した。

お風呂に入る時に、胸にある傷を由真に見てもらった。

「この傷なの。目立つよね?」

「えっ?想像したのより小さいね、傷跡。目立たないじゃん。それにそのくらいの傷だったら、美容整形とか形成外科で綺麗になるよ」

「そうなの?目立たなくできるの?」

「うん。私、美容の勉強してるじゃない?顔に傷がある人とかの傷の隠し方とか、整形だったらこうすれば傷が消えるとか、少しは詳しいんだよ」

「本当に?私の傷も消えるかな。今は無理でも、大人になったら美容整形に行ってみようかな」

「うん。その時までに私ももっと勉強しとくし。大丈夫だよ、芽衣」

「ありがと、由真」

そっか、私の傷、目立たなくなるといいな。

早く自分でお金を貯めて美容整形に行こう。



お風呂から出たら、同じ部屋の女子と恋バナが始まった。

もちろん話題にされたのは私と由真。

でも由真は彼氏の夏樹が同じクラスだからあまり他の子に話をしてくれなくて。

秘密にしたいこともあるもんね。

そして、私に話題を振られて。

「芽衣はさ、あの結城くんと本当につきあってるんだよね?凄いね」

「何も凄いことなんてないよ?」

「だって、結城くんって前とは雰囲気変わったし、凄くモテるでしょ?心配じゃないの?」

「うーん、心配はしてないかな」

「わー、芽衣って愛されてるんだー。いいなー」

「あ、芽衣。でも気を付けて。同じ5組の高柳さんが結城くんを狙ってるって噂だよ。この旅行でなにかするって、5組の友達から聞いたけど」

「そうなの?なにかする、ってなんだろう。なんか怖いね」

あれだけ和真に酷いことを言われたのに、まだ高柳さんは和真のことが好きなの?

何も無いといいけど。

私の胸の内は穏やかじゃなかった。何か嫌な予感がしていた。





今日は班別行動の日。

今日の湊はすっごくテンションが低い。昨日との落差が・・・。

とりあえず、今日もそのテンションの低い理由を聞いてあげることにした。

後悔しそうだけど。

男子は男子で夜に恋バナをしたみたいで。

そこで湊はハイテンションの理由を皆に話したんだそう。

そして皆から

『キスしただけでそのハイテンションって、可愛いな、湊』

と、からかわれたらしい。

ああ、湊。本当にあなたは可愛いヤツだ。

この可愛いヤツが私の一生涯の親友なんだな。


どうにか湊をなだめて、私たちは4人でタクシーを使い、伏見稲荷大社へ向かう。

そこの千本鳥居を通ると願い事が叶うって聞いて、4人で何をお願いするかで盛り上がった。

私は、もちろん和真が医学部に合格しますようにってお願いするの。

まだ一年以上先の受験だけどね。

皆には和真とずっと仲良くできますようにってお願いするんだーって、嘘をついて。ごめんね、皆。

伏見稲荷では4人で沢山写真を撮って。

もちろん、和真にもメールで沢山送ったの。

それなのに和真からは一枚も写真が来ない。

しかも返事は

≪湊と楽しそうだな、ムカツク≫

って、写真を送るたびに同じ返事が返ってくる。


≪和真も写真送ってよ≫

そうお願いしたら、どこの神社のものか分からない赤い柱の台石の所がアップで送られてきて。

≪これ、どこよ?和真の意地悪≫


そんな感じで2日目が終了した。


夜になり、和真に明日の確認メールをする。

≪和真、明日は8時半にロビーで待ち合わせだよね?楽しみにしてるね≫

≪おう!俺は明日しか楽しみじゃなかった。明日はあんなことやこんなことをしような、芽衣≫

はぁ?なにその、あんなことやこんなことってさ。和真も湊に近いものがあるよね、時々。




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