コインの約束
◎ 光の先に見えたもの

私は暗く長いトンネルの中にいた。

ここは、どこなの?出口はどこ?

なぜこんなに悲しいの?

ああ、思い出した。

みーくんとまーくんにお別れをしたんだ。

お母さんから手術をするからもう二人には会えないんだよ、って言われて。

さよならをしてね、って言われて。

もうすぐ中学生になるお兄ちゃんの、みーくん。

私と同じくらいの背の高さで、「芽衣ちゃん」と言っていつも私にくっついていた、まーくん。

お別れの日、まーくんがずっと泣いていて。

それにつられて私も大泣きして。

「元気になったら、お嫁さんになる」って約束したんだった。

その言葉はまーくんに向けて。

私は早く元気になってまーくんに会いに行かなければいけないんだ。

遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。

私を呼ぶ人の、そこへ行かなければいけない。

まーくん、どこにいるの?

まーくん、私、元気になったよ。

まーくん、会いたいよ。

「まー、く、ん」

眩しい光が見えた。やっと長いトンネルから抜け出すことができた。

私を見ているこの人は、誰?

まーくんじゃ、ない。

私を「芽衣」と呼ぶ、この人は?


私はお父さんとお母さんを見て、安心して。

「まーくんは、どこ?」

そう聞いて、また瞼を閉じた。


次に見た夢は、和真と手を繋いで知らない場所を歩いているところ。

ここは、どこだろう?

長い坂道の中腹、和真の手を離し、私は走っていた。

私は和真から逃げたんだ。でも、どうして逃げたの?

和真は悪くないんだよ。どうして私は逃げたの?どうして堂々としていられなかったの?そんなに弱い人間だったの?

私が私から責められている。

もう、絶対に和真の手を離してはいけないんだよ、芽衣。

ごめんね、和真。手を離してしまって、ごめんね。

早く私を見つけて。もう一度、私を探して。



もう一度、光に向かって走り出す。


「か、ずま」


そこには私を心配そうに覗いている和真がいて。

和真が泣いている。そんな哀しい顔をしないで、和真。

私は和真の頬に手を伸ばし、和真の涙を拭った。

すべて思い出した。京都にいたんだ。和真と、京都に。

「芽衣!芽衣!」

和真は私の両親や看護師さんたちがいるにもかかわらず、私を抱きしめてきた。

「和真、人前だよ。離れてよ。恥ずかしいでしょ」

「ごめんな、芽衣。本当に、ごめん」

「和真は悪くないでしょ?逃げた私が悪いんだよ。和真の手を離してしまって、ごめんなさい」

「芽衣、もう絶対に離さないから。ずっと側にいるから」

「うん、嬉しい」

そんな和真の恥ずかしくなるような告白を聞いて、お父さんが

「まぁ、まだ高校生なんだし、二人でゆっくり大人になって行きなさい。焦ることはないんだから」

それは、私と和真を認めてくれたってことだよね?

私と和真は見つめ合って、微笑んだ。


脳と心臓の精密検査をして、どこにも異常がないことが確認できたから、明日退院できることになり、学校への登校も許可が下りた。

学校へはお母さんが連絡してくれて。

その日のうちに担任の先生と由真、夏樹、そして湊がお見舞いに来てくれた。

湊は病室に入ってくる前から泣いていたようで、ベッドに座っている私を見るなり、抱き着いてきた。

湊、やめて!和真が見てるから!和真に怒られるよ。

あれ?和真がそんな湊を見ても何も言わない。

逆に微笑んでない?

「湊は許すよ。これから先、芽衣を抱きしめていいのは俺と湊だけだからな」

えーーっ!和真、どうしちゃったの?



後から由真に聞いた話。

歳を取って、もし私よりも先に和真が死んじゃったら、私のことは湊に託すって。そんな約束を和真が湊に提案したんだって。

どこかで聞いたことのある、遠い未来の話。

ねぇ、和真。あなたと湊って本当に似ているよ。


そして湊がお見舞いだと言って持ってきてくれたのは、10個入りと書いてある箱に、3個だけ残った八つ橋だった。

「芽衣は京都の土産、買えなかっただろ?せっかくだから八つ橋食えよな。ちなみに賞味期限は今日までだから」

これ、明らかに食べ飽きた八つ橋だよね、湊。


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