コインの約束
◎ 冷血な和真?

「芽衣が遅刻なんて珍しいね。どうしたの?」

次の休み時間になると仲良しグループの由真(ユマ)と夏樹(ナツキ)、湊(ミナト)が心配して私の席まで来てくれた。

男2人、女2人の4人でいつも行動しているから、良く2組のカップルと勘違いされる。誰と誰の組み合わせでカップルだと思われてるのか、不思議なんだけど。

私はこの3人が大好きで、信頼できる仲間だと思ってるの。
恋愛感情が全然ないから4人で上手くやっていけてるんだと思う。

由真は中学からの付き合いで、何でも話せる気の合う友達。背が高くて、美人さん。物事をハッキリ言う性格が私は大好き。

夏樹は高校1年の時に同じクラスになって、席が近かったから話すようになって。とっても優しいの。お兄さん的な存在かな。

湊は夏樹とは正反対の性格。とにかく毒舌で、口が悪い。私は湊とよく喧嘩したりするけど、本気の喧嘩じゃなくて、じゃれ合ってる感じ。

私は今朝の遅刻の理由を3人に話した。

「今朝、食べ過ぎちゃったみたいでね。気持ち悪くなってたところで電車にも酔って。途中の駅で降りて吐いてた・・・。」

「うお!芽衣、汚いな!っつーか食べ過ぎで吐くってよ、どこの幼児だよ」

相変わらず口の悪い湊。

「なによ、湊!少しは心配してくれてもいいじゃない」

「へっ、そんだけ怒れるんなら心配ないだろ。今日から芽衣はリバース芽衣ってあだ名だな!はははっ!!」

「ふざけんな、湊!」

湊と喧嘩をしていると、それを見かねた由真が、

「もうやめなよ。湊も大人気ないなぁ」

そして夏樹も、

「だよな。心配だったならもっと優しい言葉を掛けてあげられないもんかね、湊は不器用だな」

なんて私を庇ってくれて。

やっぱり由真と夏樹はできた人間だよ、誰かさんと違って。

「そうだ、それでね。駅で5組の結城和真くんって人に助けてもらったの。気持ち悪いのが治るまで一緒にいてくれてさ。遅刻させちゃった」

「結城・・・和真?」

三人はその名前に聞き覚えがあるのか、しばし沈黙する。
そして三人揃って

『冷血和真!!』

は?何それ、変なあだ名

そして三人揃って手を顔の前でブンブン振って

『ありえない』 って。

私がその三人の揃いっぷりに呆気に取られていると、由真が

「芽衣、それって本当の話?あの結城和真だよ?」

「本当だよ。だって結城和真って自己紹介されたし」

「それって、結城和真を語った別の人間じゃない?だって、すごく冷たい人だってウワサだよ。助けてくれるなんてありえない」


すると湊の目が輝きだして、

「芽衣が夢を見ていないか、今から5組に行って確かめてこよう!」

もう、湊はこういう話、大好きだよね。

そして私たち4人は5組へ向かった。

5組のドアの所から4人で教室の中を覗く。

小さい声で由真が私に確かめてきた。

「この中に今朝助けてくれた自称、結城和真はいる?」

「うーんっと、あっ、いたいた。あそこ、窓側の後ろに3人立ってるでしょ?あの中で一番背が高い人だよ」

すると夏樹が、

「本当にあの人だった?芽衣。間違えてない?俺たちも結城の顔知らないから、本人か分からないけどさ」

「うん、あの人だった。飲み物も買ってきてくれて。優しかったけどな」

それを聞いていた湊が、結城くんたち三人が立っているところまで行ってしまった。

「ねぇ、結城和真ってどいつ?」

そんな風に遠慮なく質問してる。

「やだ、湊!何やってんのよ!」

私はいたたまれなくなって、5組に入り湊を引っ張って廊下へ連れ出そうとした。

その時、結城くんと目が合った・・・。けど、目を逸らされた。

「ねぇ、どいつが結城和真?」

「湊、もういいでしょ。帰るよ」

湊がしつこく聞くから、

「結城は俺だけど、何?」

すごく冷たい声で湊に答える結城くん。

「おまえなの、結城って。今朝さ、リバース芽衣がお世話になったって聞いてさ。お礼を言いに来た」

「なんでお前からお礼を言われるんだよ」

すごく冷たい声、それに顔も怖い。この人、今朝の人じゃない。

「湊、私の勘違いだった。この人、違う。お騒がせして、ごめんなさい」

私はそう謝って結城くんたちに頭を下げた。

「行くよ、湊。ってかさ、リバース芽衣ってやめてよね」

そう湊に文句をいいながら5組を出ようとしたら、後ろから

「芽衣、勘違いだったって、なに?」

突然名前を呼ばれたから、びっくりして振り返ると

さっきとは全然違う、優しく笑う結城くんがいて。

そして結城くんが小さい声で言った。

「芽衣、元気になって良かった」


その一連の結城くんの行動、言動に驚いたのは私たちではなく5組の皆で。

『和真が笑った?!』

『結城くんが女の子を名前呼びしたーーー!!』

『結城くんの笑顔、破壊力半端ないーー!』

なんて大騒ぎになってしまって。

私たち4人はこの騒ぎに紛れて駆け足で5組を立ち去った。


「一体なんだったの?あの5組の盛り上がりは?」

自分のクラスに戻ってきた由真が興奮気味に話す。

「それにしても、結城和真ってイケメンだったねー、ねぇ芽衣」

それを聞いていた夏樹と湊が

『そんなこと、ねーよなぁ。かっこよかったか?』

なんて意気投合してるし。


やっぱり結城くんって変な人。

冷たい表情だったり、優しい顔をしたり。ほんと、読めないな。でも、結城くんの笑った顔を見たとき、なぜか胸の奥がトクンと鳴いた。

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