コインの約束
◎ コインの約束
和真はリハビリを頑張り、何の支えもなく歩けるまでになり、部活にも行くようになった。まだ走ることはできないので、チームに指示を出し、キャプテンとして最後の大会へ向けてチームをまとめている。
そんな和真を私は体育館の2階からそっと見守る。
練習が終わると一緒に帰る。
今までの日常が戻っていた。
「春の大会が終わったら、部活は引退なんだ。引退後は本格的に受験勉強を始めないと間に合わないんだよな。芽衣とゆっくりできる時間があまり取れなくなる」
「うん、それは分かってたよ。医学部なんて相当頑張らなきゃ合格できないでしょ。少し寂しいけど、私も勉強頑張らなきゃね」
「芽衣、提案があるんだ。部活を引退したらさ、もう一度京都へ行かないか?修学旅行の最終日に行けなかったところへ、行こう」
「本当に?行きたい!和真と一緒に行きたい!」
私は嬉しすぎて和真に飛びついた。
「ちょっ、芽衣。危ないよ。飛びつくなって」
「だって、和真からのお誘いなんて滅多にないから。嬉しいの」
「おい!滅多にないって、失礼だな」
「ふふっ、絶対だよ、約束だからね」
5月に入り、バスケットボールの大会が始まった。
和真はフル出場はできないものの、それでも交代でコートに入った時は活躍をした。
私はすべての試合を観に行き、和真を応援した。
去年の夏休み、和真のバスケを初めて見た時に目を奪われた和真の動き。
とても綺麗だったのを覚えている。
もう和真のバスケをしている姿が観られなくなるのかと思うと、なんだか切ない。
もっともっと、高校生でいたいって思った。
そして大会は順調に勝ち進み、今日は湊も一緒に応援に来ていた。
私と湊は和真が出場すると、声の限り声援を送る。
「結城の怪我、大丈夫そうだな。あんなに動けているんだから、もう心配はないんだろ?」
「うん。もう以前の和真に戻ったよ。湊、色々とありがとう」
「おう!俺は芽衣と大親友。結城とは同盟を組んでいるからな」
「なによ、同盟って」
「その名も”芽衣同盟”だ」
「もう、ばっかじゃないの。同盟を組まれても困るんですけど」
「ははっ、いいんだよ。それで」
和真たちは準決勝で敗退し、部活を引退することになった。
私と和真が出会った夏はすぐそこまで来ていた。
部活を引退した数週間後、和真との約束通り京都へ旅行に来た。
場所は清水寺。ここから旅行は再スタート。
あの坂道を上り、坂道の途中にあるお土産物屋さんに立ち寄る。
『記念コイン』の看板を掲げているあのお店。
私たちは去年秋に記念コインの忘れ物が無かったか、ダメもとでお店の人に聞いた。
「あら、あるわよ、2枚。ちょっと待っててね」
私と和真は顔を見合わせて、本当に私たちのかな?って半信半疑で。
「あったあった、これね。名前がメイさんと和真さん。これで合ってるかしら?」
「わぁ、取っておいてくれたんですね。どうもありがとうございます」
私たちは自分の刻印したコインを受け取り、約一年越しに交換っこした。
『 To 和真 あいしてる From メイ 』
『 To 芽衣 一生涯愛す From 和真 』
「芽衣の刻印、まさかの全部ひらがな?これをあんな長い時間考えてたのかよ」
「いいでしょ。この言葉を一番、和真に伝えたかったんだもん」
「俺のは、出会いがあれば必ず別れがある。それは死ぬ時でいい。そんな意味を込めたんだ」
「和真、あの時、私を見つけてくれてありがとう」
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