コインの約束
◎ 色々な恋模様

私たちが結城くんを確かめた日から、夏樹が由真の側から離れない。

夏樹、どうしちゃったんだろう。今までこんなこと無かったのに。

私は湊にそっと聞いてみた。

「ねえ、湊。夏樹の様子が最近おかしくない?何かと由真に絡んでるよね」

「・・・、芽衣ってさ、鈍感だよね。」

「なんで夏樹の話なのに私が鈍感になるのよ!」

「芽衣はさ、おこちゃまなんだよな。この前も食べ過ぎて吐いてるし」

「それとこれとは関係ないでしょ!湊のバカ!」

「鈍感リバース芽衣!」

「もう、いつも私の悪口を言う!湊なんて嫌い!」

そう湊に言って、プイッと顔を湊から背けた。

「本当に、芽衣は鈍感なんだよ」

小さい声で、せつなそうにつぶやいた湊。

私のどこが鈍感なのよ。

「芽衣と由真がさ、結城のことイケメンって言うからだろ。夏樹だって、俺だってモテるんだからな!」

「うーん、夏樹がモテるのは、分かるけど。湊も?こんな毒舌男、モテる要素ないし」

なんて湊に反撃してみるけど、本当は夏樹も湊も女子からの人気はあると思う。

二人ともサッカー部でそこそこ活躍しているみたいだし、良く差し入れとか貰ってくる。

何人かから告白されたりもしているみたい。

特に湊は喋らなければかっこいいと思うよ。

喋るとボロが出るって言うか、すぐに毒舌になるから。

それでも何故かそれが女子には受けてて。年上からも年下からも人気がある。

一人、1年生の凛(リン)ちゃんていう子は何度も湊にアタックしては振られて、を繰り返している。

相当、湊が好きみたい。ひそかに私は凛ちゃんを応援してるんだよ。

それでもこの二人、特定の彼女は作らないんだよね。もったいない。

「由真ってさ、好きな奴とかいんのかな?」

急に湊がそんなことを言ってきて。

「由真に好きな人?どうだろう、聞いたことないけど・・・なに?湊って由真が好きなの?」

「ば、ばかじゃね。ちげーよ。俺じゃなくてさ」

あ!やっと気付いた!

「うわー、私って鈍感だったねー。夏樹の事、理解したよぉ」

「な、鈍感にも程があるだろ、芽衣はどうしようもねーな」

「ほんと、反省するわー。で、夏樹に協力するの?どうする、湊」

「まず、本人に告らせなきゃだろ。俺たちが動いてどーすんだよ」

「そうだよね。じゃさ、由真に好きな人がいるのかだけ聞いとくね」

「おう!でもまだ夏樹には内緒だかんな」

「了解!」

「で、芽衣はどうなんだよ。芽衣は好きな奴とか、いんの?」

「私?なんで今、私なのよ」

そう返事をしながら、ふと結城くんの顔が目の前に出てきた。

なんで、結城くんが出てくるの?


「芽衣の鈍感は死ぬまで治らねぇな」



それから数日後、いつもは4人で食べているお昼に、用事があるからと夏樹と湊に断って、由真と2人で食べることにした。

いつもは教室で食べるんだけど、今日は学校の食堂で。

「ね、由真。由真ってさ、その・・・好きな人とか、いる?」

「ストレートに聞いてきていいよ。夏樹のことでしょ?」

わ、やっぱり由真って私と違って鋭いな。

夏樹の気持ちを分かってるんだね、由真は。

「夏樹の態度がさ、見てると由真に向いてるんじゃないかなって思って」

「うん。私もそう思う。最近何もなくてもすごく近くにいるんだよね。笑っちゃうくらいに分かりやすいんだもん」

「それって、由真的にはどうなの?イヤなの?」

「ううん。イヤじゃないよ。私、夏樹の事好きだよ」

「えっ!じゃあさ、由真から告白する?」

「しないよ。夏樹が言ってくるのを待ってる。じれったいけど、もう少し、待っていたいかな」

「でもさ、そうやって待っている間に夏樹が他の子に取られちゃうかもよ。夏樹って結構モテると思うけど」

「夏樹が他の子を選ぶんだったら、それまででしょ。私のことを好きでいてくれるんなら、他の子なんかに目を向けない、、、と、信じてる。あまり自信はないけどね」

由真はそう言ってはにかんだ。

こんな綺麗な由真でも自信がなくなることもあるんだ。

夏樹、早く告白しちゃえばいいのに!

「私のことより、湊はどうなの?」

「へ?湊? 湊がどうかした?」

「私から見てると夏樹よりも湊の方が分かりやすいと思うんだけど」

由真は何を言ってるんだろ?

「分かりやすいって、なにが?」

「・・・やっぱり、芽衣は鈍感だよね」

「やめてよ、由真まで湊と同じこと言わないで」

「湊が芽衣は鈍感だって、言ったの?」

「うん。鈍感リバース芽衣だってさ」

それを聞いて由真が大爆笑して。

「あははっ!湊、可哀想すぎるーーー」

なんて言ってる。

なんで由真が笑っているのかイマイチ分からないし、可哀想なのは湊じゃなくて私の方だよ。

変なあだ名付けられたしさ。


由真と2人で湊の話をしていたら、

「芽衣?」

私の後ろから急に誰かに名前を呼ばれて。

振り向くと後ろの席に結城くんと他に2人のお友達が座ってて。

「あっ、結城くん。なんか久しぶりだね。この前は湊がごめんね」

「なぁ、その湊ってやつと芽衣って、どんな関係なの?前は湊ってやつに芽衣が世話になったな、なんて言われるし。今は芽衣から湊がごめん、ってさ」

「湊?湊は友達だよ。なんで?」

それを聞いていた由真が

「あぁ、湊。残念だね、友達だって」

と言って頭を抱えていたなんて、気付かなかった。


それと同時に結城くんのお友達がニヤニヤしているのにも、気付かなかった。


「芽衣はさ、付き合ってるヤツいないって言ってたよな?」

「そうだよ、いないよ?」

「じゃ、ずっと彼氏作るなよ」

「はい?なんで結城くんにそんな命令されなきゃならないのよ」

「約束、しただろ」

「約束?なにそれ?いつどんな約束した?」

「覚えてないなら、もういいよ。じゃあな」

そう言って結城くんはお友達2人をその場に残し、食堂を出て行ってしまった。

結城くんが見えなくなると、お友達2人が私たちの席に移動してきて。変な組み合わせの4人になる。

「芽衣、ちゃん?ってさ、和真のなに?」

「なに?って言われましても。この前偶然駅で助けてもらっただけの関係ですけど」

するともう一人の友達が、

「和真はさ、一切女の子に対して優しくないし、話し掛けないんだよ。必要最低限のことしか話さないの。しかも下の名前で女の子を呼ぶなんて、考えられないんだよね。クラス中がこの前の和真のあまりの変わりようを見て、驚いてさ」

「そうかな?結城くん、すごく優しい人だと思うけど。クラスの皆、結城くんを誤解してないかな?まぁ、多少は俺様っぽいところもあるけど、普通に笑ってくれるし、話もするよね?」

『いやいや!!そんなことないから、びっくりしてるんだよ』

結城くんのお友達2人が声を揃えて私を否定した。

そこまで会話を聞いていた由真が、

「それって、結城くんが芽衣の事を特別に思ってるみたいじゃない?」

するとまた結城くんのお友達2人が

『だよなー!俺たちもそう思う』

って、声を揃えて由真に同調してきた。

「そんな訳、ないよ」

なんて否定したけど、私の顔は赤くなって。

それにしても、約束って、なんだろう?結城くんとは駅で初めて会ったんだし。その時にそんな約束なんてしてないよね。

誰かと勘違いして、、、る?


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