コインの約束
◎ 私と湊と和真と

翌日も、その次の日も、毎日夏季補習。相変わらず湊と一緒。

「芽衣、ボーっとして、どうした?来週の追試のこと考えてんの?」

「まっさかー!テストのことなんてこれっぽっちもだよ」

「それ、やばくないか?本気でもう一度2年生だぞ」

「そう言う湊は勉強してるの?余裕なわけ?」

「んなわけねーだろ!で、テスト対策どうするよ」

「あっ!勉強を教えてくれる人が、いるかも」

そう言って湊の手を引っ張り、学校の試験トップ30人の張り紙の前まで連れてきた。

あれから私もすっかり忘れていたんだけど、和真の成績が良いのなら、勉強を教えてもらいたいと思って。


トップ30の表を30番目から目で追った。

なんだ、和真の名前なんて載ってないじゃん。

すると1番から見ていた湊が、

「なあ、芽衣。この結城和真ってさ、アイツだよな?」

「えっ?名前載ってるの?どこどこ?」

湊が指をさしているのは1番に書いてある名前。

『1 結城 和真』

「えーーっ!マジで?湊!」

私と湊は二人して頭を抱えた。

私は和真をバカにしたことへの反省。

湊は単純に和真への敗北を認めたから。


「湊、今日補習が終わったらバスケ部に一緒に勉強のお願いに行かない?」

「お、おう!なんか嫌だけど、背に腹はかえられないからな」

今日はサッカー部の練習がお休みだと言うので、補習終わりに湊と二人で体育館へ向かった。


まだバスケ部は練習中のため、二人で体育館の2階から練習を覗く。

私たちに真っ先に気付いたのは凛ちゃん。

目を真ん丸くして湊を凝視している。

「なぁ、芽衣。結城とはどうなってんの?前も聞いたけど、好き、なんだろ?」

「うん、好き、、、かな。和真って、皆が思ってるよりも優しいよ」

「芽衣だけに優しいんだろ。いい男だな、俺の次に」

「ふふっ、そうだね」

「あーあ、俺も早く新しい恋を見つけるかなー」

「だったら、下を見てごらんよ。湊のことずっと見てる子がいるでしょ」

「もしかして、凛?」

「そう。ちゃんと凛ちゃんと向き合ってみたら?」

「ん。考えてみるよ」



私と湊は最初こそバスケの練習を観ていたけれど、だんだん湊が飽きてきてしまって、私にちょっかいを出してきた。

「芽衣、ホラ!」

そう言って落ちていたごみを投げつけてきた。
最初は無視していたけど、しつこく投げてくるから

「ふざけんな、湊!おらぁー」

なんていつものノリで湊のTシャツの背中に2倍のゴミを押し込んだ。

「うおー!俺の背中にダニが付いた!!俺の肌、ナイーブなのに。肌荒れしたら、芽衣のせいだかんな」

「湊の肌はハガネだよね?ゴツゴツの」

「なんだとー!なら、俺の柔肌を見せてやる!いでよ、俺の肌!」

そう言って湊が来ていたTシャツを脱いだ。

「キャー、湊!脱ぐな!見せるなーー!」

逃げる私、追ってくる湊。

体育館の2階は二人の運動会になっていた。

そして、再度バスケ部から注目された。


「ストップ!湊。私たち下の階から注目されてない?」

「おっ!ホントだ。じゃ、丁度いいな。結城――!ちょっと来れる?」

ば、ばか湊!なに余計に目立ってんのよ!

和真どころか、男女バスケ部が2階の私たちを一斉に見た。

和真は「チッ」と舌打ちして渋々2階へ上がってくる。

「なんだよ、まだ練習中なんだけど」

こ、怖いよ、和真。

「それと、芽衣。裸の男となに仲良くやってんだよ」

「えっ?仲良くなんてないよ、こんな変態」

「なんだとー、芽衣!親友の俺を変態扱いするとは、ゆるさーん!」

あぁ、和真の顔が・・・。鬼になってる。

「湊、ストップ!私たちはここに遊びに来たんじゃないでしょ?」

「おう、そうだった。結城、一生のお願いがあるんだ。俺と芽衣に数学と物理を教えてくれないだろうか」

「和真、私からもお願いします。このままだと来年も2年生です。修学旅行、2回行くことになっちゃいます」

「お!それはそれでいいな。芽衣、一緒に修学旅行2回行こうぜ」

「バカ湊!そうならないためのお願いでしょ!」

私は和真の顔を見る。やっぱり怖い顔してるし。

「芽衣には教えてやるよ。でもコイツは知らない」

やっぱりそうなるよね。和真って湊のこと嫌いだよね。

でも、それじゃ困るの。

「和真、お願いします。湊も一緒じゃなきゃ嫌なの」

「あ?なんでだよ。そんなに芽衣はコイツが好きなのか?」

和真、不機嫌極まりない。

「うん、湊のこと大好きだよ。だからお願い!」

「そうだ。俺も芽衣が好きだ。俺たち大親友だもんな」

もう和真は呆れて何も答えてくれなかったから、それを私と湊はいいように解釈して、

『どうもありがとう!』

と、先にお礼を言った。

和真はやってらんねー、とか言いながらもテストまで毎日私たちの面倒を見てくれた。



やっと終わった夏期補習。貴重な夏休みの前半を補習に費やしてしまった。

来年はこんなことにならないよう、もっと勉強を頑張ろうね、って湊と誓った。

和真のおかげで2人とも最後のテストはどうにか赤点は免れて、私と湊は進級できる、のかな?





< 7 / 22 >

この作品をシェア

pagetop