丸重城の人々~後編~
守口「お待たせしました」
丸重城の前に高級車がゆっくり止まり、運転席から守口が出てくる。
柚希「あ、はい…」
守口「どうぞ」
後部座席を開けてくれ、柚希は乗り込んだ。

柚希「あ、あの……」
ゆっくり走り出した車内で、運転する守口に話しかける柚希。目は合わせられないが、竜王組と聞いて少し安心していた。
守口「はい」
柚希「ほんとに、竜王組の方ですよね?」
守口「はい、どうしてですか?」
柚希「いや、お見かけしたことないお顔だったので……」
守口「まだ入ったばかりだからかな?」
柚希「それに…」
守口「は?」
柚希「守口さんのような、穏やかな顔の組員さん見たことないので」
守口「穏やか?」
柚希「はい。正直…竜王組の皆さんは、見た目の怖い方ばかりだから。
…………あ!でも、見た目ですよ!
中身は優しいです!やっぱ、将大さんが優しいからかなぁ。フフ…ここだけの話、私将大さんのあの大きな手が好きなんです。あの手で頭撫でられると、とても安心するんです」
守口「アンタ……」
柚希「え?」
守口「いや、何もない…」

守口はたった今初めて、罪悪感を感じていた。
自分はこんな純粋な女性を騙して、人質にしようとしている。
確実に自分は柚希の敵なのに、完全に信用し挙げ句の果てに“穏やか”だと言ってくる。
これから起こる残酷な出来事を前に、車内はとても穏やかだった。

守口「着いたよ」
再度後部座席です開けた、守口。
柚希「はい━━━━━━え……ここ……どこ?」
明らかに竜王組の事務所ではない。
それは、門の紋章を見れば一目瞭然だ。

守口「ごめんね。
大瀬 柚希さん。
ここは………徳力組・本事務所だよ」

柚希「守口…さん…どうして……?」

守口「ごめんね、君は今から“人質”だよ」
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