こうして魔王は娶られましたとさ。
結界を破ったこと。それはすごいことだ。だからそれに関しては認めよう。しかし、術の知識が豊富だったり、魔力の量が並外れていたとしても、身体の造りからして違う、魔族で魔王の僕はそう易々と討てるものではない。
さては貴様、友人の肩を持ちたいのだな。
そんな意味を存分に含ませて、しかしそんなものは通用しないぞと緑を睨めば、男はがしがしと後頭部をかいた。
「いや、逆によぉ、魔王さま」
「何だ!」
「魔王さまがここにいるのは何故だと思う?」
ここにいるのは何故……だと?
どういうことだ。
思考を巡らせようとした刹那、ぐっと腕を引かれ、ぐるっと視界が流れた。
「なぁ、魔王さま」
「なっ、何だ、」
動い視線の先には、嫌というほど見てきた、青。
「とぼけんのはやめようぜ」
にたりと吊り上げた唇が言葉を吐くのにあわせて、じゃらりと鳴った手枷の鎖。すり、と手枷に刻まれたヒビをロヴァルの長い指がなぞった。
「身に覚え、あんだろ?」
瞬間、脳裏を過る、僕を見下ろす青と振り上げられたロヴァルの右手。
それに誘発されて、思い出す。抑揚のない「寝てろ」を合図に、僕の意識が途絶えたことを。
「あ」
ー終ー