こうして魔王は娶られましたとさ。
その昔、僕らが産まれる何億年も前に、とある勇者によって魔族は絶滅の危機に瀕していたらしい。その時の魔王は僕らのように男女の双子だったそうで、危機的状況を打破すべく、女の魔王はこう考えた。勇者を己に惚れさせてしまえばいい、と。
短絡的だが、人間は愛というものを重んじる種族だ。ふたりの魔王は持てる全ての知識と魔力を駆使して、勇者に呪いをかけた。男の勇者は女の魔王に、女の勇者は男の魔王に、問答無用で惚れてしまう、そんなバカげた呪いを。
しかし侮るなかれ。今こうして、僕という存在があるということは、つまりそういうことだ。勇者の血族は例外なくその呪いにかかっている。そのせいか、勇者なる者が誕生するとき双子の魔王が世に君臨する、そんな言い伝えが人間の間でまことしやかにささやかれているらしい。
だから僕は、城と花畑の周りに結界を張った。
攻撃系の術を得意とする弟とは違って、僕は防御系の術が得意だ。そんな僕が本気で張った結界は、魔族しか通さない。稀にいる人間と魔族のハーフでも弾かれる。よほどの魔力と精神力を、それこそ僕ら魔王に匹敵するほどのものを持っていない限りは、人間には到底破れやしない代物だ。
大事なことだからもう一度言うが、何事も、平和が一番だ。
「おい、お前」
「え」
「俺の嫁になれ」
だからこそ、疑問に思う。
「え?」
「俺の、嫁に、なれ」
風貌も、気配も、魂も、人間でしかない男が何故、ここにいるのか、と。