こうして魔王は娶られましたとさ。
この男は何を……?
そこまで考えて、はっとする。そして、思い出す。ご先祖さまの呪いのことを。
「っ、待て、勇者、それはちが」
「おーい! ロヴァル! 俺をおいていくなっての!」
魔王に惚れる。それは血脈に刻まれた呪い。本心ではない。お前は呪いに踊らされているだけだ。
そう続くはずだった言葉は、その男、ロヴァルの後方から走ってきているもうひとりの男が張り上げた声によって、出るタイミングを盛大に失った。
「ひっ! また人間!」
緑の瞳、白銀の髪。
なるほど、暇潰しに読んだホコリまみれの文献に書いてあった勇者の従者とやらか。
「てめぇが遅ぇだけだろうが」
「お前が速すぎんだよ。ったく……偵察してたのに急に走り出すか」
「あとこいつ嫁な。俺の」
「ら……は!? 何!? 嫁!? は!?」
ふたりvsひとり。これは、やばいぞ。
普通の人間ならばどうってことはないけれど、このふたりは結界を越えた者達だ。恐るべし、勇者とその従者。
従者の視線がこちらへと向く。ちなみに勇者の視線はずっと僕を捕らえたままだ。瞬きもしてないように思えるけれど、生物学上それは無理だろう。勇者ともなれば、瞬きすら高速なのか。あな恐ろし、勇者。
どうにか。どうにか逃げられないだろうか。このレベルの人間をふたり同時に相手するのは多分、無理だ。死ぬ。普通に死ぬ。
「仕方ねぇ、一応形だけな」
「……え」
「よし、帰るか」
「っちょ! なんっ! いつの間に!?」
ぐるぐる。そんな思考を巡らせていれば、花束を握りしめたまま胸元に寄せていた両手首に、ガチャリと手枷が嵌められた。