こうして魔王は娶られましたとさ。
魔王捕獲の褒美は「こいつを寄越せ」
「……いう……で、こいつを寄越せ」
ふるり、まぶたが震えた。
ゆっくりと、それを持ち上げれば、視界いっぱいに広がる勇者の顔。というより、顎のライン。
「ゆっ……!」
「起きたか、嫁」
「嫁じゃ! ない!」
見上げているような視界。それに気付いて、別のことにも、はたと気付く。
横抱きにされてる!
これが噂に聞くお姫さま抱っこか。いや僕は、魔王だけれども。
「おろせ! 離せ! 触るな無礼者っ!」
「断る。おろしたら逃げるだろ」
「はぁ!?」
何言ってんだお前。
またしてもそんな顔をして、勇者ロヴァルはそう吐き捨てた。
いやそれは僕のセリフだバカ野郎。嫁ヨメ言ってるわりに、逃げられる、っていう自覚はあるんだろ。なぁ!?
「っ、こ、国王! そこの、趣味の悪い椅子に座ってるあんた、国王だろ!? 頼む! こいつをどうにかしてくれ!」
「あ、いや、その、」
この男じゃラチが明かない。
そう判断して、話の矛先を、勇者と対峙するかのように二段ほど上のそこに鎮座している趣味の悪い椅子に座っている「国王です!」と言わんばかりの風貌の男に向ければ、それまでこちらに視線を向けていた男はモゴモゴと何かを呟きながらあからさまに視線をそらした。
「おい、お前、国王だろ!?」
「そうだが、その、」
「何だよ!」
「その者と余はとある約束を交わしたのだ」
「だから! それが! 何だってんだ!」
「いやその、万が一にも魔王を生け捕りにできたなら何でも望むものをやろう、と」
「…………は?」
「いやできるわけがないと思うての……相討ちか、ギリギリ退治できるか、ぐらいだと」
「…………はぁ!?」
「だがその者は生け捕りにしてきてしまった。ならば余も、約束は守らねばなるまい」
例えそれが! 口約束だろとも!
そう、ドヤァ全開の国王(多分)の顔面にファイアーボールをぶちこみたくなったのは言うまでもないだろう。
さがすがです! 国王さまぁ!
やんや、やんや。気にも止めていなかった甲冑の中身が騒ぎ始めた。