こうして魔王は娶られましたとさ。
うるっ! せぇ!
「というわけでだな、この者は貴様をよ……っひい!」
ぐるぅあ!
唸るような咆哮が己の口から飛び出す。
「なめた口を聞くなよ、人間風情が」
視界をちらつく、黒い炎。咆哮の寄り添ってそれも出てしまったのだろう。弟が薬草マスターになると宣言したとき以来だが、おそらく威力は衰えていない。
どろり、怯えた眼でこちらを見る男の近くにある趣味の悪い柱が、溶けて、垂れる。世界征服などに微塵も興味はないが、腐っても魔王。魔族を統べる者に与えられし称号は伊達ではない。
そんな風に凄んでから、またしても気付く。
未だ僕は、勇者ロヴァルにお姫さま抱っこをされたままだということに。
くっそ! 格好がつかない!
「おい、嫁」
なんて思っていれば、向けられた声と視線。
「だ……っ、ん、」
だから! 嫁じゃない!
そんな反論は、ふにゅり、己の唇に重ね合わされた勇者ロヴァルの唇によって、喉から出ることを阻まれた。