世にも歪な恋物語


 席替え、したくないや。
 もうじきあるんだろうなあ。

 離れてしまったら、話せる機会、なくなっちゃうと思う。

『よろしゅう、糸井(いとい)さん』

 和葉さんは、わたしの名前、進級したその日には覚えてくれた。

 クラスでわたしのこと呼んでくれたの、先生を除けば和葉さんだけ。

 分けてもらった消しゴム、放課後までに、返した方がいいのかな。
 けっこう使っちゃったけど、まだまだ使えるし。

 それとも、新しいの弁償するべきだろうか。

 ……和葉さんの1/2サイズの消しゴム、このまま、持っていたいなあ。
 『あげる』って言われたし。

 あれって、もらっていいってことかな。
 それとも単純に『貸してあげる』という意味の、『あげる』なのかな。

 わたしが一日使った消しゴムなんて、いらないかな。

 あああ、どうしよう。


「なあ。糸井さん」
「は、ハイッ!」
「僕のこと。名前で呼んで」
「……へ?」
「"和葉さん"やと。他人行儀やし」

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