恋人ごっこ幸福論
「何がそんなにいいのかしらねぇ」
「ね、確かに整ってるけどそこまでじゃないよね」
同じクラスの友達、英美里ちゃんと紗英ちゃんは私が凝視している姿を眺めながらそうぼやく。
2人は、通っていた塾であの日以降に仲良くなった友達だ。
“一高に合格する”それを目標にひたすら自習をしていたあの頃、同じ志望校ごとのクラス分けで声をかけてくれたのが2人だった。
あの日のことがあってから、勉強だけでなく人間関係ももう一度頑張ってみようと思えるようになった。
自殺未遂の原因となったことでは解決とはいかなかったけれど、塾では対等に純粋に友人として受け入れてくれた2人との関係を構築することができた。
入学後、偶然クラスも同じで、学校ではいつも2人と一緒に過ごしている。
「顔も綺麗な人だけどそれだけじゃないんだよ」
「あら、聞いてた」
「聞こえてるよ。橘先輩のこと悪く言わないで」
「えーだって」
英美里ちゃんが文句を言いかけると、体育館の中から女子生徒のものと思われる黄色い声が上がる。
体育館横の入り口からそっと中を見てみると、橘先輩がシュートを入れたようで。