恋人ごっこ幸福論
「たーちばーなくーん!ナイスシュート~」
「かっこいい~かわいい~頑張って~」
まるでアイドルを見ているかのように騒ぐ女子生徒たち。…いつものことながらお元気だ。
それよりせっかくシュート入れたのに見逃しちゃったな。なんて思っていると、こちらを橘先輩が振り返る。不快そうに顔を歪めてすたすたと入り口周囲までやってくると
「ギャーギャー騒いでんじゃねえよ、目障りなんだよクソ女共」
舌打ちしながら彼女たちに向かって暴言を吐いた。その光景に「うわ出た」と英美里ちゃんがぼそっと呟く。
「え~相変わらず意地悪だねぇ」
「いいじゃん、応援しているんだから」
「お前らの奇声なんか聞いても不快なだけ。つーか邪魔だしどっか行ってくんない」
減らない彼の暴言に女子生徒の動きがぴたっと止まる。
あ、これはまずいのでは。その予感は案の定的中。
「ちょっとくらい優しいこと言ってくれてもいいじゃんね、もう行こ」
「まあ橘くんは所詮“観賞用王子”だし?許したげるよ、じゃーねー」
「…最初っから来んなっての」
はあ、と去っていく彼女たちの後ろ姿を見ながらため息をついた橘先輩が、ふとこちらに視線を向ける。今日は話しかける前に気づいてくれた。嬉しくてすぐに傍へ行く。