恋人ごっこ幸福論
「ど、どうですか!」
それでも、自分から言って始めたからにはあまりドキドキしている場合ではないと思い尋ねる。
また何かからかってくるかな、と彼の反応を想像して見つめてみるけれど、もぐもぐと口を動かし続けるだけで何も反応が返ってこない。
「せ、先輩?」
もしかして、実はしたくなかった?
不安でもう一度呼びかけると、なんかぎこちなさそうに視線を逸らされる。
「ごめんなさい、もしかして嫌だ」
「違う、そうじゃない。そうじゃなくてさ」
一度そこで言葉を切った彼の返事を、目を瞬かせて待つ。そうすると、逸らした視線をちらっと一瞬だけこっちに移して。
「…意外と、これされるの悪くねーな」
「えっ…」
見間違いではない、少し照れた表情でそんなことを言うから。そんな場合じゃないけど、ドキドキするしかなかった。