恋人ごっこ幸福論
「た、橘先輩!こんにちは」
「……何」
「用は特にないんですけど、今日も会いたくて来ました!今日もとても素敵です。御姿見られて凄く幸せです」
「あっそ」
滾る思いの丈をそのまま伝えると心底どうでもよさそうな返事が返ってくる。
それでも全然いい、彼が冷たいのには慣れっこ。というかなんならこの対応はいつものことだから。
初めてここで彼に再会したとき、橘先輩へ感謝の思いを伝えた。
あの日貴方が助けてくれたおかげで今こうして立ち直って生きていること、私があの日から貴方のことで頭がいっぱいで毎日幸せなこと、全部感謝しているって。
────でも当の本人は、
「ああ、そう。別に元気なんだったらどうでもいいわ、じゃ」
と表情1つ変えることなくそう告げてすぐ練習に戻っていた。それを見たときの英美里ちゃんと紗英ちゃんは
「最悪じゃん」
「本当にあの人に助けられたの?」
と心底軽蔑していたけど。
その後聞いた話では、“橘彼方は一高随一の美青年、女子生徒からの人気は高いのだが───無愛想・口が悪い・女嫌いの三拍子揃った難アリ男である”と言われているらしいことを知った。
人気も所謂そのルックスによる“観賞用”であり、本気で彼を好きになる人はそう居ないのだとも言われているらしい。(居てもああいう取っ付き難い性格なので、近付けないのもあるだろうとのことだが)