恋人ごっこ幸福論
「神山」
「はい…ひゃ!?」
名前を呼ばれてぱっと顔をあげるとすぐ目の前に橘先輩の顔があって吃驚する。
「相変わらずよく驚くな」
「だ、だって」
「そんなに俺と居たら緊張する?」
ふっと意地悪に笑いつつも、私を見る彼の顔は思ってたより穏やかで優しくて、キュンとしてしまう。
「そりゃ…好きだもん」
「そっか」
浮かれてドジしたんだって分かってるのに、なんだかんだそんなとこも受け入れてくれている優しさが好きだ。
「で、今2人だけど」
「ふ、2人ですね」
「なんか要望は?」
「え、要望って」
「みんなと勉強会だと不満そうだったから。なんかあんのかなって」
「不満そう!?そんな風にしてました私?」
「してたしてた、すっげえ顔に出てた」
そんな、いくら突然の合流だったとはいえ不満そうな顔してたなんて感じ悪過ぎる、とつい両手で自分の表情筋を触って確認すると引っかかった、という顔をしてきて。
「冗談だよ、んな顔してない」
「えっ、冗談?」
「うん、冗談」
確認する私に橘先輩は頷いた。
「ええ…私どうしようかと思ったのに!」
「あっはは、本当に素直だよなお前」
「そういう風に言われても嬉しくないです」
褒められてるのか馬鹿にされているのか分からない、ぷいっと顔を背けていじける振りをする。ごめんって、と謝ってくるけど今はあえて無視をする。
こっちは凄く慌てたんだ。からかったこと、ちょっとくらい罪悪感持てばいいんだ。
そう思ってそのまま黙っていると、ようやく真面目に声をかけてきた。