恋人ごっこ幸福論





「今日2人だったら本当はどうしたかった?」

「…特に何がしたいとかっていうより、ただ2人だけで居たかったです」

「そんなにか」

「早朝の体育館やお昼休みの視聴覚室の時みたいな…たわいもない話をして、橘先輩にちょっとからかわれて、ふとした瞬間に新たな一面を見て一喜一憂しているあの時間がなんだか、居心地良いんです。お休みの日もそんな居心地いい時間があればもっといいな、って」

「だからあえて2人だけになれる家に呼んだ、ってこと?」

「その通りです…」



みんなと一緒に居るのも賑やかでいいけど、橘先輩と過ごす時間で思い浮かぶのはいつも2人っきりの時間だった。

その場に居合わせるだけの無関係な人すら居ない、本当の2人きり。その時見る橘先輩の表情は、みんなと居る時に見る表情とはまたちょっと違う。

それは私だけに見せてくれている訳じゃないかもしれない、でも自惚れだけど私に気を許してくれているのかもしれないって思うあの時間は、形式以上の貴方の恋人で居れるから。


だから、もっとそんな時間があればいいのにって思ったのだ。

背けていた顔を彼の方へ向けてじっと彼の目を見つめながら少しずつ、近くに寄る。


手を伸ばせば簡単に届く距離、私はドキドキしてしまうけれど、橘先輩はやっぱり何も感じないのだろうか、それともこの間から少しは私にドキドキするようになったのかな。








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