恋人ごっこ幸福論
「ん、どした」
「橘先輩」
ドキドキと心臓が激しく音を立てていて、苦しいけど嫌じゃない。
こんな感情を貴方も私に対して抱いてくれますように。
「っ、失礼します」
「え、」
トンっと軽く、体重が伸し掛るか伸し掛らないかくらいの勢いで、彼の肩に寄りかかる。
こめかみの辺りに丁度彼の肩が当たって、体温が伝わってくる。
吐息が掛かってきそうな距離感に、もう壊れてしまいそうなくらい激しく心臓が動いているけれど、なんとか耐えようとそのまま寄りかかり続ける。
「神山、お前」
「ふ、2人っきりの時間が欲しかったのもあるけど!私は貴方に少しでももっと意識して欲しかったから。…今日は、いっぱいドキドキさせるつもりだったんです。だから…今、とりあえず思いついたことをやってます」
本当は、一発で貴方が私を気にしてくれるような何か気の利いたことが出来たらいい、でも私にはそれは無理そうだから。
小さなことをいくつも積み重ねて、せめて私がいつもドキドキしている10分の1でも意識してくれたらいい。
「…いつもの仕返しか」
「そ、れもあるかも」
「確かに神山からもしてもらいたいけど、」
そう言うとぐっと肩を引き寄せられて、軽くよりかかっていた身体が彼に強く密着する。
「やるんだったらこれくらい思い切りやってくんないと」
「ち、近くないですか…!」
「ドキドキさせたいっつったじゃん」
「そ、そうだけど…!」
これ今までで1番距離が近い。
自分の心臓の音が、橘先輩に聞こえてしまいそうなくらい。