恋人ごっこ幸福論
「デート、したいです」
「ん、じゃあしよう」
囁くように言ったのは、おそらく3人に気づかれないようにしてるのだろう、私も彼にしか聞こえないくらいの声で返すと、また同じくらいの声量で返ってくる。
…2人だけの秘密の約束だ、嬉しいな。
付き合っていることを知っている相手の前でデートの約束なんて隠すほどのことでもないと思う、でもこの秘密感がなんだか嬉しかった。
「デートの日今から楽しみにしとくよ」
「私も楽しみにしてます。試験いつもより頑張れちゃいそうなくらい」
「へー…随分余裕そうだな」
「え?」
なんだか意外そうに私にそう言う橘先輩につい目を瞬かせる。
「さっき神山が俺にもっと意識してほしいって言ったじゃん?だからデートで沢山ドキドキさせてもらおうと思ったんだけど」
「えええ…誘ってくれた理由ってそれですか」
「うん、1番はそれだよ」
そう言って笑う彼の悪戯っぽい顔が憎めない。
そうだ、少し進展したとはいえまだきちんと両思いになれたわけじゃない、なんならまだまだ頑張らないといけないのに。
橘先輩からそんなお誘いをしてくれるなんてどうしたんだろう、そう思った答えがはっきり分かったけれど。
「楽しみにしてるわ」
「…大いに楽しみにしててください。あはは…」
お陰様でミッションだらけのデートになりそうだということも分かったのだった。