恋人ごっこ幸福論
episode.6
「今日は本当にありがと~!ひぃちゃんのおかげでめっちゃ助かった!」
「ううん、私はノート貸しただけだから」
「英美里ちゃんはマジだよ、緋那ちゃん」
アイスを食べてのんびり休憩していると、あっという間に皆が帰る時間になった。
帰り支度をしながら何度も感謝の言葉を述べてくる英美里ちゃんは相当数Ⅱに困っていたようで、この御恩は絶対忘れない、なんて大袈裟なことまで言っている。
「でも今日は本当にありがとね、俺らも急に来ちゃって迷惑かけたし」
「いえいえ、お祖父ちゃん居ない日は全然大丈夫なので気にしないでください」
「…まあ、さすがにもう突然来たりとかはしねえようにするから。神山も困んだろ」
「ちょっと吃驚はしましたね」
結果的には良かったから、これも悪くないなって思ってる。途中騒がしくて勉強できないかと思ったけど、一応2人きりにはなれたし…デートの約束もできたから。
橘先輩の顔を見ているとついにやけてしまいそうだ、なるべく彼の顔を見ないようにしてなんでもない振りをする。
「じゃあテスト頑張ろーね」
「ひぃちゃんバイバーイ!」
「バイバイ!明日学校で」
そんな浮かれた気持ちを隠しながら、なんとか皆を見送って。ドアがバタン、と閉まった後一気に表情筋が緩んでくる。
「どうしよう、デートだ…」
橘先輩と、デート。デートだ。
夢にまで見た出来事が、叶う日が来るなんて。
信じられなくて、ついほっぺをつねってみてみるけれど、普通に痛い。どうやら夢じゃないらしい。