恋人ごっこ幸福論
「行く?水族館」
「えっ、もしかして、行きたいんですか!」
「…まあ、そうだな」
曖昧に返事する彼は、果たして本当にそう思っているのかは分からないけれど。
「神山はどうよ、水族館」
「え…私は…行ってみたい、ですけど」
「ん、じゃあそうしよう」
彼の質問に答えていたらあっさり水族館に決まってしまったので、どう思っているのか確認できなかった。
「先輩…本当に水族館行きたいですか?」
「うん」
「私に合わせてくれるのは嬉しいけど、他にあったら先輩も言ってくださいね」
「分かった」
分かった、ってそれ結局私が行きたそうにしてたからそう言ってくれただけだって認めてる。橘先輩と一緒ならどこでだって嬉しいのに。私が流されやすいのか、彼が話を持っていくのが上手いのか。
…まあ、嫌ではなさそうだけれど。
「納得いってない?」
「…遠慮ばかりされると私が辛いです」
「お前が絶対遠慮すると思ったからわざとしてんだよ」
「え、そうだったんですか」
完全に思考が読まれてる。目の前に座って面白そうにする彼に、デート前から早速リードされてる。
「…じゃあせめてお昼ご飯は、橘先輩の好きなところにしてください。私苦手な物ないので」
「分かったよ。ちゃんと考えとく」
デートは2人でするものだから、やっぱり橘先輩の意見が聞きたい。私に気遣ってくれるのは嬉しいけど、私は橘先輩に楽しんでもらいたいんだから。