恋人ごっこ幸福論
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「わ、凄い…ここから見ても大きい!」
そしてデート当日の日曜日。
水族館の最寄り駅に到着するとつい独り言が出てしまった。
数十メートル先にある水族館は、小学生の頃来た時の何倍もの大きさで駅を出た瞬間に目がいってしまう。
実際に目の前にすると益々楽しみになってきたな、入るのが待ち遠しくなってきた。まあその前にお昼ご飯食べるんだけど。
12時に駅前で待ち合わせだったからそろそろ来るはず、お気に入りのワンピースでちゃんとお洒落してきた、さっきお手洗いでも再度確認してきたし大丈夫なはず。
「さすが、もう来てる」
「わっ!」
でも一応もう一度見ておこうか…と手鏡を出そうとした瞬間、いつの間に来たのやら、背後に橘先輩が居た。
「結構待った?」
「ううん、全然。さっき来たところです」
私服、だ。そんなの当たり前だし、この前も見たけど。
今日はお出かけだからか、この前はもう少しラフな感じだったけど今日はまたちょっと雰囲気違うな。
何着てても似合うし、本当私もいつもキュンとしてる。
「…そんなガン見するとこある?」
「!あ、つい改めて私服も素敵だなって」
「なんだそりゃ。相変わらず訳分かんねえな」
そう言いつつ慣れてしまったのか、さほど気にする様子もなく橘先輩はそのままじっと私を見つめてくる。
「…それを言うなら、お前もそのワンピースいいんじゃない」
「っ…本当ですか?」
まさかお気に入りの服をそういう風に言ってくれると思ってなくて、つい動揺してしまうと
「本当だよ。いちいち直球で反応し過ぎな」
ふっと笑われて橘先輩は「じゃあ行くか」と歩き出す。
…そんなに直球かな?
思い返してみれば、橘先輩にされること全てに誰が見ても分かるような反応してることに今更気付いた。
そりゃ笑われても仕方ないかもしれないな、恥ずかしく思いつつも彼の隣を着いて歩くと、歩幅を合わせてくれる。