恋人ごっこ幸福論
「こっちも旨いな。はい」
「……よかったです」
そのまま彼は自分で食べると、キッシュの無くなったフォークだけ私に返してくる。
先に、牽制された。この前悪くないって言ってたのに。
「公共の場だからまあマナー的に良くねえだろ」
「…やっぱりそうです?」
「うん。だからまた2人の時にして」
「っ、はい…」
さらっと流れるように告げられた要求についドキッとしてしまう。
絶対、わざとそういう言い方してるだけなのに。
私を面白そうに見つめる目の前の彼は、そう簡単には有利にさせてくれない。
こっちは意識させようと必死なのに、なんならこの前の卵焼きもだけど、流れで間接キスになることも本当は少しドキドキしてるし。
「ほら、俺のも食っていいから」
「ありがとうございます…」
そういうことじゃないんだけどな。
納得はいかないものの、お返しにメインのチキンをくれる彼からフォークを受け取って渋々口にすると。
「こっちも美味しい!このチキンのソース何が入ってるんだろう、レシピ知りたいな~」
キッシュもいいけどこっち頼むのも有りだったな…!
複雑な心境だったのに、美味しいものを食べると気分がそれだけで良くなってきてしまう。
美味しいご飯の力って、すごい。
「…この店気に入った?」
「はい、どれも凄く美味しくて幸せになれます」
「そっか、良かった」
それに、橘先輩がとても満足そうに私を見つめるものだから。
今不利な状況なのにそれだけでつい、このままでもいいかと思ってしまいそうになるのだ。