恋人ごっこ幸福論



***




「支払い一緒でお願いします」

「あ、私の分これでぴったりあるのでどうぞ」

「ここは奢るからいい」


お会計時、代表してレジで伝票を出す橘先輩に自分のランチ代を出そうとすると、さらっと断られる。



「え、でも…」

「弁当作ってくれた時の礼だよ。遅くなったけど」

「そんな気にしなくていいのに、」

「量まあまああったし結構食材費掛かってんだろ。よくおかずも貰ってるしさすがに申し訳ないから奢らせて」



確かに5人分だからそこそこ費用は掛かったけど、自分のお小遣いの範囲で出してるから別に大丈夫なんだけどな。

とはいえ、これ以上遠慮するのも逆に失礼だし、結局大人しくお礼を伝えて奢って貰うことにした。



「…じゃあ、お言葉に甘えてご馳走様です」

「どういたしまして。さすがに水族館は奢ってやれないけど」

「ランチだけで充分過ぎますよ、むしろそこまで奢るって言われたら全力で拒否します」

「全力で拒否ね、そう言ってくれて安心したわ」



さすがに俺の財布もそんなに裕福じゃないんで、なんて冗談ぽく言う彼は、私にこれ以上気にしなくていいようにそう言ってくれているみたいだ。

世の中のデートってこういうものなのだろうか、計画から今までなんだかんだ言いつつ私に気遣ってくれて、甘やかされてばかりいる気がする。


今日は私が貴方をドキドキさせるために頑張るはずなのに、私ばかり喜ばされてていいのかな。

今だって、大通りの車道側を歩いてくれているし、カフェに行く時もそうだったから偶然なんかじゃなくて”あえて”そうしてくれているんだ。


今日も素っ気なくて、悪戯にからかってくる時以外は愛想もないのに。”ちゃんとする”って言ってた通り恋人らしくしようとしてくれているのかもしれない。

恋愛なんて分からない、と言ってた割には上手くエスコートしてくれるから、ときめくばかりで何も出来ない自分は少し不甲斐ないけど。





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