恋人ごっこ幸福論
「もしかして俺が言ったこと相当気にしてた?」
「だって…ドキドキさせてみてって言ってたから」
「言ったけどそこまで真に受けなくてよかったのに」
「橘先輩は半分冗談で言ってるんだろうなってのは分かってました。でも私は本気だから。…本気で好きになって欲しいから、頑張らなきゃって思って」
橘先輩に好きになってもらいたい、チャンスがあるなら何だって使っていきたい。いつもそれくらい必死なんだもん。
少しだけ仲良くなれたと思っても、やっぱり不安で。こっちを見てくれることが増えたと思っても、それでも自信がない。
貴方から”好き”と思ってもらえるようになるまで私はいつも全力でいるしかできないんだ。
「ったく、しょうがねえな。じゃ手繋ぐか」
「あっ、」
1つ息をつくと、橘先輩が私の左手を取って歩き出す。街の方とは違う方向へ向かって私の手を引いていく彼の背中に、慌てて声をかける。
「あの、橘先輩」
「ここの敷地、広場もあるらしいからちょっと散歩しよう」
「え、散歩?」
「まだ帰りたくないんだろ。もしかして疲れた?」
私が”手を繋ぎたい”って言ったからもう少しデートしようかってこと?
はっきりしないで突然面倒なこと言ったのに、顔だけ後ろを振り返ったまま先に進む彼に首を振る。
「全然、まだ歩けます。私もお散歩したい」
「ん、分かった」