恋人ごっこ幸福論




手を繋いで、水族館の周辺広場を2人でゆっくり歩いていく。

思ったより広場には人が居て、水族館を観終わったのだろう家族連れやカップルが休憩していた。



「…橘先輩は、もし私が不意打ちに手を繋げてたらドキドキしてましたか?」

「不意打ちに?」

「はい。私っていつも直球だって言われるからそうじゃないアプローチしたら違ったのかなって」


そう聞くと、橘先輩は少しの間考え込んでからさらっと答える。


「うーん、悪くないだろうけど別に今と変わらないと思う」

「そっか……」


じゃあ最初っから意味なかったのか…。今日ずっと頑張ってたのに、私はまた頑張る方向を間違えていたのか。つい苦笑いしてしまう。

最近少しだけ意識してくれるからって期待しすぎてたのかな、まだまだだったのかと少しがっかりする。


「そんな落ち込むか」

「だって…橘先輩のこと全くドキドキさせられないから」

「…全くではない、けど」

「私はこれじゃまだ足りないです。…好きになって欲しいんだから」


でもこんな様子じゃ駄目だから、橘先輩がまだ一緒に居続けてもいいと思ってくれている間に頑張らなきゃいけないんだ。


「……分かってねえな」

「分かってない、って何がですか」


少しの間を置いてぼそっと橘先輩がそう呟いて、思わず聞き返す。橘先輩は問いかけた私を暫し見つめた後、ぎこちなく答えて。



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