恋人ごっこ幸福論
「できた、と」
エプロンを外していると丁度スマホの通知音が鳴った。お祖父ちゃんかな、と開いてみるとやはりそうで。
“いつもより遅くなりそうだから、夕飯は要らない”
とだけメッセージが受信されていた。
「もう少し早く言ってくれないかなー…」
丁度完成したとこだったんだけど。いつものことだが、連絡が遅い。大体いつ帰ってきてるか知ってるはずなのに。
まあ明日でも食べれるしいいか。明日は休みだって言ってたし、お昼ご飯にでもしてもらおう。
…というか、本当に仕事なのかな。
小さい工場の割にはいつも帰りが遅いし、夕飯が要らないと言われることも多いからたまに変に疑心暗鬼してしまいそうにもなるけれど。
思い当たる節を考えるとつい辛くなってしまいそうだから、その考えは無理矢理頭の隅に押し込んだ。
「そうだ、明日は橘先輩と1分以上お話してもらえるように頑張ろうかな」
そんな時は好きな人のことを考えよう。
そうすれば、つい不安に思ってしまうこともあの人の隣で学生生活を過ごす夢を思い描けば、どうとだってなりそうな気がしてくるから。
「よし、じゃあ明日は部活始まる前には行ってお話してもらう。決まり!」
あの日から、私にとって橘先輩の存在は前向きになれる原動力。
だから、もし可能ならもっともっと近くに居られるようになりたいんだ。