恋人ごっこ幸福論
「それ買うのか?」
「え、いや~…でもこれペア用だし」
可愛いけどな、デザインが明らかにペア用だからなあ。
3人用とかあれば英美里ちゃんと紗英ちゃんの分も買ってお揃いにしたら…そういえば、そもそも今日デートすること伝えてないな。
「……どうしてもこれが良いんだったら一緒に買うけど」
「え!橘先輩これ欲しくないでしょ?いいですよ無理しなくて」
「今日の記念ってことならいいよ。とりあえず今後もしばらく付き合う証にくらいはなるだろ」
とか言いつつ、可愛らしいぬいぐるみにちょっと躊躇しているように見えるけれど。
先輩、こういうの好きじゃなさそうだし私が困ってたからそう言ってくれたんだろうな。どうしようかと上手く返す言葉を考える。
「で、どの生き物がいいんだよ」
「いや、全然本当に見てただけなんで!それにどれも可愛いから選べないし…」
「じゃあペンギンにしよう。これ2つ買って帰ろう」
「え、ええええいいですって無理しなくて!!」
「大丈夫無理してない」
「本当に!?めちゃくちゃ躊躇してるじゃな、」
丁度そんなやり取りをしていた時、背後を通りかかった人が橘先輩にぶつかって、その衝撃でバッグから先輩のスマホが落ちてしまった。
「!あ、やべ」
「大丈夫ですか!あ、でも傷はついてなさそ…あれ?」
丁度目の前に落ちてきた彼のスマホを拾った時、ディスプレイ画面に目がいく。
スマホのメモ帳に今日行ったデートの行き先についてや、デートでやるべきことなどがびっしりと綴られていた。