恋人ごっこ幸福論
「………」
「あ…」
偶然とはいえ、がっつり見てしまったことに気づいてしまった目の前の彼は、なんとも気まずそうな表情をしながらスマホを受け取った。
「すみません…勝手に見てしまって」
「画面消してなかった俺が悪いからいいよ」
「……先輩、今日めちゃくちゃ事前準備してくれてたんですね」
きっとSNSやサイトから情報収集していたんだろうデートの計画メモは、どうやったら喜んでもらえるかとかそんなことが書いてあった。
今日橘先輩が私にしてくれていたことは、きっとその事前準備の時から考えてくれていたんだ。だから慣れてるように見えたんだと納得する。
「……まあ、一応俺から誘ってんだしそりゃ下手なこと出来ねえだろ。神山にとって初めてのデートになるんだったらちゃんとしなきゃって。さすがにいくら俺でも考えるわ」
「先輩…」
本人は普通のことのように言ってるけど、そうやって相手を思って行動できるのはとても凄いことだ。
そんなところも、好きだなあ。当然のように私を思いやって行動してくれたことにキュンとする。
「まあとにかく、これは買うから」
「えっ、本当に無理しなくていいのに…ってあ、」
これ以上いたたまれなくなったのか、私が止めるより前に、橘先輩は2つキーホルダーを取ると、レジに持っていく。
彼を慌てて追うけれど、「本当に無理してない」と言ってペンギンのキーホルダーを買ってしまった。
「先輩、本当にいいんですか?」
店から出た後、やっぱり少し不安でもう一度確認する。
「ああ」
「でも、可愛いキーホルダー苦手なんじゃないですか?」
「良いつってんだろ。それとも神山が嫌?」
「私は……むしろ嬉しいですけど」
嫌な訳ない、橘先輩とお揃いなんて凄く嬉しい。お揃いのキーホルダーなんて夢みたいだ。
「じゃいいだろ。嬉しいんならよかった」
「ありがとうございます…」
優しいな、今日ずっと橘先輩私の為に色々してくれる。今日は私がドキドキさせる日だったのに、ここまでしてくれて。本当に優しい。
自分のキーホルダー代を渡しながらにやけてしまうと、いつものように怪訝な顔で見られたけれど。