恋人ごっこ幸福論




「何、なんか文句あんのかよ」

「ううん、ないですよ。ただ嬉しかっただけです」

「なんだよそれ」



いつまでもにやけてしまう私に呆れつつも、彼は嫌ではなさそうで。

少しだけ橘先輩の考えてることも分かるようになってきたな、そんな進歩も嬉しくてにやにやを抑えるのが大変だった。



「このペンギン、通学鞄に着けようかな」

「えっ、これそんな目立つとこに着けんのかよ」

「可愛いかなあと思ったんですけど…あ、お揃いだからって無理して橘先輩着けなくていいですから!おうちで仕舞ってても全然大丈夫なので」


苦手なのに鞄に着けるなんて普通嫌だよね、今の発言だと付けてくれと言っているように聞こえてしまう気がして、慌てて弁解する。


「買ったのに着けなきゃ意味ねえじゃん。しょうがないから家の鍵にでも着けるわ」

「いいんですか?」

「?なんだよ、鍵ならまあまだ見られないからいいよ」


何の躊躇もなく、当然のように橘先輩がそう言って。



「じゃあ…私もやっぱり家の鍵に着けようっと」

「真似すんのか」

「それもお揃いにしようと思ったんです」

「あっそ」


素っ気なくも、でも突き放す訳じゃない彼の横顔を見て、ふふっと笑みが漏れる。


私、すごく、すごく幸せだな。

手を繋いで歩いた帰り道は、デート前に想像していた何倍も甘くて。


私の人生で、きっとトップ3に入るくらい幸せな1日になったのだった。



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