恋人ごっこ幸福論
「「この前はすみませんでした!!!」」
「……へ?」
突然、大声で謝罪されて、振り返るとピシっと頭を下げた先輩女子2人が目に入った。
「えーっと…あの時怪我させるとこだったし、今更だけど謝ろうと思って」
「そうそう、すぐ謝る気だったんだけど~…その、気まずくて」
「何よそれ!気まずいからって今更謝罪して許されるわけ「英美里ちゃん」
しどろもどろに言い訳を始める2人に、言い返そうとする英美里ちゃんを止めてから頭を下げる先輩女子に視線を落とす。
あれから時間経ってるのに、彼女達はわざわざ謝罪しようと思って声を掛けてきたんだ。気に入らない相手に、ましてや後輩に頭を下げるなんてあの時の印象からは想像もつかないけれど。
この人達はずっとあのことを気にしてたのかな、私は…全然気にしてなかったんだけど。
「あの、頭上げてください」
「…いいの?」
「はい。えっと、そもそも…謝る相手は私じゃなくて橘先輩じゃないかなって思うので。結果的に、私のこと庇って怪我したのは先輩だし」
「橘くんには先に謝った!けど…」
「けど?」
「ストーカーちゃんに謝るもんでしょ、って言われて。自分は別に気にしてないって」
「え…」
橘先輩がそんなこと言ってくれたんだ。そういえば、私のことあの時怒らずに心配してくれたな、私が原因だったのに。
「…橘先輩のこと悪く言ったのは酷いけど、謝ってくれたのでもういいですよ」
「え、本当?」
「はい、もう過ぎたことだし私も気にしてなかったので」
あれから一度も彼女たちをバスケ部で見ていなかったし、特に何かされたりもなかった。橘先輩の怪我もすぐに治ったし、彼も気にしてないって言うんだったらもう許していいと思った。