恋人ごっこ幸福論
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「あ、橘先輩」
翌日、休憩時間に飲み物を買う為自販機コーナーへ来ると、ばったり橘先輩に遭遇した。
飲み物を選ぶ横顔をつい止まって見つめてしまっていると視線に気づいたらしく「げっ」と面倒くさそうな顔をされる。
「偶然ですね」
「…別に校内ならあるんじゃない」
「カフェオレ良く飲んでいますよね、好きなんですか?」
私を無視してカフェオレを購入する橘先輩に、一方的に話しかける。勿論返事なんてないけれど。
「私もカフェオレ好きです!砂糖入った甘めのやつ、橘先輩は雪印のが好きなんですか?あ、待って」
出てきたカフェオレを持ってすたすたと廊下を行く橘先輩を追いかける。
全然待ってくれない、というか多分待つ気ない。今日は1分以上お話してもらうのが目標、部活前に行くつもりだったのに偶然会えるなんてこれはチャンスだ。けど、無理かな。ある程度進んだところで急にぴたっと彼が立ち止まってついぶつかりそうになる。
「用ないならついてくんな」
素っ気なくそれだけ告げて、背を向けるとまた橘先輩は先に進んでいく。周囲は取り残された私を見て、「可哀そう」だとか「女の子相手に酷い」とか同情するようにひそひそ話している。
こんなことくらい日常茶飯事だし、めげないけどね。見失ってしまわないよう小走りで彼を追いかけて、なんとか追いついた。