恋人ごっこ幸福論
「橘先輩。あの、浴衣…どうですか?」
「ん?ああ…」
菅原先輩が褒めてくれるのもそりゃ嬉しいけれど、私が1番聞きたいのは彼の反応。
「柄が1番似合ってる」って言われた牡丹柄の浴衣、先輩の好みにあってたらいいな。ドキドキしながら彼の返事を待つ。
「うん、似合ってるんじゃない」
「え、それだけ!?」
真顔でさらっとそう橘先輩から感想が返ってくると、咄嗟に傍で聞いていたらしい英美里ちゃんがムッとする。けれど私は、その返事が聞けて一安心。
「じゃあ凄く嬉しいです!」
「はいはい、嬉しいなら良かったよ」
「ええええええ…!?」
英美里ちゃんが納得いかなくたって、似合ってるって言われたらそれだけで私は充分。
別に具体的になにか言ってもらわなくたって、橘先輩が素直に良いと思ってくれてるのは間違いなさそうだもん、だからこれで大満足。
「それより屋台回ろうぜ、腹減った」
「行きましょう!私も楽しみにしてたんです」
「緋那ちゃん…本当に健気だねぇ」
「関心してる場合じゃないですけどね~」
「まあまあ、英美里ちゃんは落ち着きな」
それにまだ今日のお祭りは始まったばかりだから。まだまだこれからだもん。言い方が素っ気ないのも不器用なのも分かってるし、この前のデートの日からなんだってポジティブに受け取れる。
いつも通りの他愛ないみんなの話に耳を傾けながら、人の波に沿って屋台通りへと足を進めていった。