恋人ごっこ幸福論




「…嬉しいです。本当にありがとうございます」

「そんなに気に入ったのかよ」

「気に入ると思ってくれたんじゃないんですか」

「冗談半分のつもりだったんだけど。まあいいか」


すっと橘先輩に手を取られて、そのままぎゅっと握られる。


「さっきからきょろきょろ危なっかしいから」


こうしたら私が喜ぶと思ってしてくれているのだろうか。

手を繋ぐのはこの間のデート以来、やっぱりまだ慣れない。指先からじわじわと体温が上がっていく感覚が、むず痒くて仕方ないのに幸せな気もする。




「で、他は何か食いたいものある?」

「結構買ったし…もう大丈夫です」

「そ、じゃあ射的あっちにもあるけど神山もやってみる?」

「え…いや、私はコントロール能力低いから射的はちょっと、」

「それなら金魚すくいとか?生き物が駄目ならヨーヨーとかもあるけどどうする」

「えっと、ちょっと待ってください!先に行ったらみんなとはぐれるしそんな気遣ってくれなくても、」



凄く落ち込んでいる私を励まそうとしてくれているのか、橘先輩は私の手を引いたまま目につくものを片っ端から提案してくれる。

嬉しいけど私はこれで充分なんだけどな。と、そこでぱっと3人の方に視線を向けたとき、なぜか唖然としている3人と目が合った。

なんだろう?ふと考えているうちに英美里ちゃんが先に呟く。



「なーんか…意外と上手くやってるのね」

「え?」

「思ってたより親密そうだよね~いいことだよ」

「そういやいい感じかもって緋那ちゃん言ってたっけ?」

「言ったけど!紗英ちゃん本人の前でそれはちょっと恥ずかしいかな…」



菅原先輩と紗英ちゃんも口々にそう続けて言い始めて。どうやら3人には今の様子が恋人同士として上手くやっているように見えたらしい。


上手くいってるように見えるって言われるのは嬉しいけど、なんだか恥ずかしい。

慌てて止めようとするけれど、一緒に冷やかされる彼はどうとも思っていないのか。






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