恋人ごっこ幸福論
「先輩、どこいくんですか。そっち教室じゃないですよ」
「ついてくるな」
「あんまり離れていったら休憩時間終わりますよ先輩」
「お前に関係ないだろ」
「…まあ、そうですね」
言ってることは間違ってない、別に彼を追いかけているのはただちょっとでも話したいだけだからだし、面倒に思われているのも一応少しは分かってる。しょうがない、作戦変更だ。
「じゃあ、1つだけ聞いてもいいですか?聞いたらもう追いかけないので」
小走りで追いかけながら、先に進む背中にそういうと一応振り返ってくれた。
「橘先輩は女の子嫌いですか、好きにならない?」
「…はあ?」
ずっと“女嫌い”だと言われる彼の噂を気にしないようにしつつも密かに気にしていた。
だってもしそれが本当なら、益々アプローチに苦労するもの。だから、せめてその噂の真相が本人の口から確かめられたら、そうふと思ったのだ。
「…嫌いなんか言ったことないけど」
橘先輩は目を数秒瞬かせた後、どうでもよさそうにそれだけ呟いた。
女嫌い、嘘だった…!素っ気ない返事だけど、その一言はかなり有難くて。
「それならよかった…!」
「え?」
つい感激して、心の声が口から漏れてしまう
よかった、本当によかった。もし本当に女の子嫌いだったらますます苦労するところだった。特に何も進歩したわけではないけど、それが分かっただけでも大収穫。
「すっごく安心しました、約束通りもう行きます!じゃあ先輩また放課後に」
「…は?」
軽く会釈すると、Uターンしてスキップしながら教室へ戻っていったのだ。