恋人ごっこ幸福論
「仕方ない、コンビニまで買いに行こっか。15分くらい歩くけどいい?」
「私は大丈夫~」
「はい、私も…?」
菅原先輩の提案に賛成した時、紗英ちゃんの表情が少し曇ったことに気づく。
どうしたのかな。こっそりと観察してみると足元を気にしているようで、どうやら慣れない下駄で靴擦れを起こしていたようだった。
「じゃあ行こ…」
「あ、あの!私が橘先輩と2人でコンビニ行くので、先に席行ってくれませんか?」
そのことにまだ気づいてない菅原先輩の言葉を思わず遮ってしまうと、皆がこっちに注目する。
「えーっと…せ、せっかくの夏祭りだから2人の時間も欲しくって…」
「なるほどなるほど!そういうことなら全然いいよ!」
「ひぃちゃんらしいわねえ、じゃあ任せましょ」
なんとかそれっぽい理由を付け加えると快く承諾してくれる。良かった、誤魔化せた。
「じゃあ悪いけど先いくね、お願いします」
菅原先輩、英美里ちゃんに荷物だけ預けると、2人は花火大会会場の方へ歩き出す。2人が先に行ったのを確認してから、絆創膏を紗英ちゃんに渡す。
「紗英ちゃん、これ良かったら使って?」
紗英ちゃんは驚いたのか数秒目を瞬かせた後、気恥しそうに絆創膏を受け取ってくれた。
「…バレちゃってたんだね。ありがと緋那ちゃん」
「こんなこともあろうかと持ってきてて良かった」
ふふ、とこっそり笑いあった後、紗英ちゃんはもう一度ありがと、と言ってくれてからゆっくり2人の後を追いかけて行った。