恋人ごっこ幸福論
「ふーん、筒井(つつい)の為か」



振り返るとずっと後ろにいたらしい、橘先輩が私をじっと見下ろしていた。

しまった、私がつい思い付きで提案したために取り残されたままだったんだ。

紗英ちゃんの為にカッコつけて気を利かしたのがバレてしまってなんだか少し恥ずかしくて、つい視線を逸らしてしまう。



「ま…まあ、そうです」

「よく周り見てんじゃん」

「たまたまですよ、先輩だっていつもそうですよね。あ、そういえば、勝手に2人でコンビニ行くって決めちゃってすみません。言い訳とはいえ許可も得てないし」

「別にんな事でいちいち謝んなくていいよ。にしても、よくドジする割にはしっかりしてるとこあんだな」

「それ褒められてない気がするんですけど」



実際ドジなのは事実だから反論できないけれど、少し不満に思いつつもコンビニの方へ歩き出す。進行方向から来る人の流れに逆らって行く人は私達以外にも何組かいる。同じ様にコンビニを目指しているのだろうか。


ガヤガヤと活気の溢れる祭り会場から離れてくると、徐々に静かないつも通りの夜の姿へと変わっていく。時折ある街灯くらいしか灯りのない夜道を10分程進めば、一際明るく存在感を発揮しているコンビニがようやく現れた。

夜とはいえ蒸し暑い外の空気とは一変、天国のように快適な涼しさが保たれた店内に入るとスマホを取り出す。



「英美里ちゃんはメロンソーダ、紗英ちゃんはお水…と。菅原先輩はあるもの教えてほしいって。それから決めるそうです」

「あいつ面倒くさいこと言うな、ホットココアとかにしてやるか」

「さすがにそれはやめましょう」

「しょうがねえな…」



コンビニのラインナップを送ったあと、結局スポーツドリンクがいいと言う菅原先輩の希望通りに選んで橘先輩はサイダーを取る。





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