恋人ごっこ幸福論




***



「…というのが、今日あった橘先輩との進展です」

「……へー」



放課後、休み時間に起こったビッグニュースを伝えると菅原先輩は何故か戸惑いに溢れた表情をする。

今日の部活は自主練からだから大丈夫!と私の話に参加している。(大丈夫ではない気がするけれど、本人が言い切るのでとりあえず信じることにした)


「あの、菅原先輩どうかしましたか?…さすがに付け回すのよくなかったですかね」

「いや、それは別にいいんじゃない?緋那ちゃん可愛いし」

「理由になってないんですけど」

「可愛い子に付きまとわれて嬉しくない男は居ないからいいんだよ英美里ちゃん!ただ…緋那ちゃんがたったそれだけでこんなに嬉しそうにしているのが健気で…俺泣けてくるわ」

「いや、そんなことはないですよ…」



目頭を押さえて、大袈裟に感極まる菅原先輩に慌ててそう言う。その光景を見ながら英美里ちゃんと紗英ちゃんはチベットスナギツネのような顔をしていた。


「てか本当に女嫌いじゃないんすか?見てる限りそうしか見えないんだけど」

「うーん、本人が言うならそのはず…性的対象は女の子で間違いないとは思うけど」

「ふーん、恋愛感情抱くかどうかってことか」

「もともとそういうこと関心薄いんだよな、あいつ」



紗英ちゃんと菅原先輩のやりとりを聞きながら、今日もそっと練習風景を眺める。

大好きな彼はちっともこちらを見てはくれないし、もしや昼間のこともあるのか今日は完全無視されてるけれど、それでもただこうやって眺めていられるだけでとてつもない幸福感でいっぱいになる。




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