恋人ごっこ幸福論





「……ねえ、緋那ちゃん。もしかして花火大会の日に絡まれた人って、」

「紗英ちゃん、その通りだよ。……あの人です」



…まさかまたあの人に会うことになるなんて。

どうして私の通っている高校まで知ってるんだろう、わざわざ追いかけてここまで来るくらいだし何らかの知り合いではあるのかも知れないが。

正直、必死に私を探しているのが怖いし見つかりたくない。



「これ見つかったらヤバいパターンよね?」

「う、うん。そうなんだけど…でも逃げてたら学校入れないし」

「裏口!裏口から入ろう!で、そのまま職員室行って先生に言おうよ」



紗英ちゃんの提案に頷いて、見つからないようにこっそりと来た道をUターンしようとしたとき。



「緋那!!」



気づかれた、この距離で…!

間が悪いことに彼は私の存在に気づいたらしく。サーッと血の気が引いていくのを感じながら、追いかけてくる彼から必死に走って逃げる。しかしあっという間に距離を詰められて、がしっと腕を掴まれてしまう。



「緋那!登校してくるの待ってたぞ、この前は」

「は、離してください!!」



もう逃げられない、でもどうにかしなきゃ。

身の危険を感じて咄嗟に掴まれていない方の腕に掛けていた学生鞄を振り回す、と。



「いでっ!?!?」



ドン、と鈍い音がして偶然にも金髪の彼にヒットしたらしく。そっと呻き声を発した彼を見てみると、脇腹を抑えながら横たわっていた。


…そういえば今日、辞書3冊入ってるんだよな。まさか直撃すると思ってなかったし…まずい、やり過ぎたかもしれない。




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