恋人ごっこ幸福論
「玲央!大丈夫?」
「っでで、まあ大したことねえよ」
校門の前に一緒に居たもう1人の男性が、倒れた彼の方へ様子を伺いに来る。
どうしよう、怒られるかな。思わず萎縮してしまったけれどもう1人の男性は私のことなどどうでもよいみたいで、金髪の彼を心配し続けている。
「ひ、ひぃちゃん…行こ!」
「正当防衛だよ。大丈夫、先生呼んでくれた人居るから逃げよう」
「え、で…でも」
思い切り攻撃してしまったから、このまま放っておくのもいけない気がするんだけど…。
2人に手を引かれるけれどどうしようか迷っていると、倒れている彼とぱっちり目が合ってしまう。
「誤解だ…緋那。俺は変質者じゃない」
「え?あの、そういえばなんで私のこと知って」
「俺だ、分かってくれ!八乙女 玲央だよ!緋那!」
「やおとめ…れお…」
目の前の彼から聞いた名を頭の中で反芻して、記憶を辿る。
何処かで聞いた名前のような、必死に思い返してみると記憶の片隅に覚えがあって。
「もしかして……玲央ちゃん!?」
「そうだよ!思い出してくれたか!」
ぱっと向日葵の咲くような明るい笑顔を私に向けた瞬間、玲央ちゃん───八乙女 玲央は彼の背後からやって来た先生達に捕まっていた。