恋人ごっこ幸福論
「…その相手って、緋那の後ろにいる男か」
「後ろにいる男?って…わっ」
「そうだよ。悪いかよ」
玲央ちゃんの目線の先へ振り向こうとした時、頭の上に何かが乗っかってきて。
「橘先輩、いつの間に」
「さっきからずっと居たわ、この鈍感」
「…じゃあ声掛けてくれたらよかったのに」
その犯人は、私の頭の上に腕を乗せて意地悪を言ってくる、大好きな大好きな私の恋人だった。
「てめぇ…あの日緋那と一緒に居た奴じゃねえか」
「まさかこっちもあの日の変質者野郎と再会する羽目になると思ってなかったよ」
冷めた目の橘先輩と、キッと睨みを利かす玲央ちゃんの空気は誰がどう見ても険悪でしかない。
なんだろう、この状況。傍から見たら修羅場のような…いや実際はそうでもないような。
「あのーお2人さん、ここ教室だから!他の皆吃驚してるから止めて!ね?」
「…菅原」
「チッ、しょうがねえな」
見かねた菅原先輩が2人の間に入ってくれたおかげで、なんとか険悪な空気から解放された。
よかった、一歩間違えたら喧嘩になりそうだったから。
「玲央…そろそろ」
「ああ。じゃあそろそろ休憩終わるし戻るわ。緋那、これから宜しくな!」
「うん…宜しくね」
ぱっと明るく笑った後、玲央ちゃんは一ノ瀬先輩と2人で教室を出ていった。