恋人ごっこ幸福論
***
その日の補講終わり。
「うわっ、今日ギャラリー多っ!」
「本当だ…最近そうでもなかったのにね」
夏休みも、お決まりの体育館でのバスケ部見学にやって来るといつもより多い女子生徒の姿に吃驚する。
「暑くなってきて2階解放してくれたの聞き付けて来た人が多いのね。入り口付近よりかなり涼しいし」
「あ、なるほど」
7月になったばかりの頃だったろうか、外で暑さに耐えながらも見学していたら菅原先輩が「2階入っていいって許可取ってきた!」ってVサインしながら入れてくれたんだっけ。
上からになるけどよく見えるし、ボールが飛んでくる危険もない。屋内ってだけで大分涼しいしとても有難かったんだよな。
…でも、この調子だと今日は見えそうにないな。
見れるのが当たり前になってたからか少し寂しいけど、いつも傍に居させてもらえてるから我慢しよう。
つい一緒に居すぎて忘れてしまいそうになるけど、橘先輩はこの学校の女子生徒達にとって、王子様なんだもんな。
「はー…バスケ部ねぇ。アイツの為に見に来てんのか?」
「!玲央ちゃん…」
「一緒に帰るつもりだから探し回ったんだぜ。女共が沢山集まってっから来てみりゃこれだ、そんなにいいかねぇあの女みてえな面《ツラ》が」
「橘先輩はかっこいいよ。顔も綺麗だけど誰よりも努力家で、凄く優しいもん」
「あれの何処が優しいんだよ」
玲央ちゃんが指差す方を見てみれば、お決まりのように黄色い声を上げて呼びかける女子生徒達に不愉快そうな顔をして無視する橘先輩の姿があった。