恋人ごっこ幸福論
「あれは…練習中に声掛けられるのがあまり好きじゃないからで…。自分が用事ある時と機嫌良い時はそうでもないんだよ!……そりゃにこにこしてることはないけど」
「気まぐれだって言いてえのか?じゃああれはどうなんだよ、後輩かしれねえけどビビってんぞ。優しい先輩ならああはならねえだろ」
「最近副キャプテンになって厳しい役目は全部橘先輩が背負ってるからしょうがないの!ちゃんと優しい所も見せてるよ、怖いのかもしれないけど」
「それで凄く優しいとは言えねっての」
不満そうな、納得のいかないような表情のまま玲央ちゃんは橘先輩の練習風景を眺め続ける。
「やっぱり緋那がなんであの野郎に惹かれてるのか分かんねぇ」
独り言のように玲央ちゃんが呟いた時、休憩のホイッスルが鳴る。
そろそろ帰ろうかな、ちらっと時計を確認しながら帰ってやるべき事を思い出す。
夏休みとはいえ家事はいつも通りやらなきゃいけないし、さすがに屋内とはいえ真夏の体育館にずっといるのも暑い。
いいタイミングだからか帰り始める女子生徒達も居て、私もその流れに乗って帰ろうかと荷物を手にする。
「そろそろ帰る?」
「うん、橘先輩と菅原先輩に挨拶だけしとこうか」
「おっけー」
英美里ちゃん、紗英ちゃんと3人で階段を降り始めると、玲央ちゃんも後ろから降りてくる。
玲央ちゃんも帰るのかな、と思っていたとき。そのまま体育館の中へ入っていって、ずんずん真っ直ぐ進んでいく。
そして部員と会話していた橘先輩の前で止まると、彼の右肩をがしっと掴む。