恋人ごっこ幸福論
「で、トイレどうすんだ?行くのか、行かねえのか?」
「行くよ…」
「おし、じゃあこうだな」
「あっ、ちょっと!」
私の肩を捕まえていた大きな手は、当然のように私の手を包み込んでそのまま私を引いて廊下へ出る。
「玲央ちゃんだから手も、」
「繋ぐなって?じゃあこれも振りほどいてみろよ」
「自分じゃ出来ないからお願いしてるんだよ…!」
1番のネック。そうそれは席を立つ時は毎回しっかり玲央ちゃんに手を繋がれてしまっていること。
教室内で捕まえられている分には、なんとなく事情を(嫌でも)知っているクラスメートくらいしか見ていないから案外問題ない。けれど廊下に出てしまえばそうはいかなくて。
「あれ見て…」
「まじか、あの子あの金髪転校生と…」
他クラスの生徒達からしたらこの状況は、勘違いされるような関係があるのだと見えなくもないらしい。
その目につく容姿と昨日校門の前で登校する生徒達を睨みつけていたことから、玲央ちゃんは校内ですっかり有名人になったみたいだ。
……このままだと玲央ちゃんとそういう関係だって変な噂が広まりそう。
「玲央ちゃん」
「なんだ」
「冗談抜きで手離して」
そうなる前に何とか自分で逃げなくちゃ。駄目元でも抵抗し続ける。
「無理」
「みんな見てるし困るの!自由にさせて!」
「見られても俺は困んねえよ。橘と別れるなら自由にしてやる」
「何がどうなったらそうなるの…」
意地でも別れるって言わせたいんだろうな…。聞いてくれる気配はない、とはいえだからといってこのまま自由に移動も出来ないのは困る。
「とにかく、トイレ行くだけなんだからはーなーしーて!!」
「緋那諦めろって、」